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東南アジアからのナマズの輸入量が急増している。東京税関によると、平成29年1〜9月(速報値)の輸入量は4487トンとなり28年(4230トン)を上回った。輸入金額は16億5800万円で既に28年の1割以上増えており、この5年間で輸入量、金額ともに約7倍に膨れあがっている。なぜ、ここにきてナマズの国内需要が急拡大しているのか-。
ナマズが注目されている理由のひとつが、絶滅が危惧されているウナギの代わりとして活用されていることだ。ビタミンやミネラルを豊富に含み、日本人のスタミナ食として親しまれてきたウナギだが、近年は100〜200グラムのかば焼きが2000〜3000円にまで高騰。いまや庶民が手を出しづらい食材となり、土用の丑の日にウナギを食べるという日本の食文化の退廃まで危惧されている。
そんなウナギのかば焼きに味が似ていて、安く提供できる魚がないかと、各社が白羽の矢を立てたのがナマズだ。流通大手のイオンは昨年初めて、ベトナムで養殖された「パンガシウス」というナマズのかば焼きを全国で販売。価格は645円で一般的なウナギと比べると3分の1程度だ。
一昨年には、マグロの完全養殖を成功させた近畿大学が「ウナギ味のナマズ」を開発し、イオンがこのナマズを使ったかば焼きを販売している。これが意外にも好評で、売り切れた店舗もあったほど。実際、イオンはこの「近大ナマズ」の仕入れを一昨年の半身7000枚から昨年は2万枚に拡大している。
好調な販売のおかげで「泥臭い」「おいしそうでない」といったナマズのネガティブなイメージが徐々に払拭されていった。ベトナム産ナマズは近大ナマズよりさらに安いことから、流通に拍車をかけており、今では立派に市民権を得た食材になりつつある。
とは言いながらも、実はナマズは知らず知らずのうち、既に日本の食卓に入り込んでいる。例えば、ファストフード店で販売されるフィッシュバーガー、居酒屋や弁当屋、学校給食などで提供される白身フライ…。これらにベトナム産のナマズが以前から使われていた。
あまり一般的に知られていないのは、実はベトナムから輸入されている代表的なナマズは、日本のスーパーなどでは生物学上の正式名称である「バサ」と表記され、売られていることが多いためだ。平たい頭部と長い口ヒゲが特徴の国産ナマズとは形状も異なっており、白身はタラに似ている。「サバ」と間違えて購入した人もいたという笑い話を聞くこともあるが、正確には「ナマズ目パンガシウス科ギバチパンガシウス属バサ」であり、イオンで販売されたナマズは前述のように「パンガシウス」と表記されている。
気になる味だが、身はふっくらとしており、「淡泊であっさりした味わいで、フライなどに適している」(水産関係者)。ただ、ウナギに比べカロリーは低いが、栄養価も低く、「スタミナ食として愛されたウナギの代替品になり得るかどうかは賛否が分かれるところだ」(同)。
とはいえ、白身のフライなどに利用するには十分な素材である。スケソウダラなどの白身魚に比べ、卸価格で2割程度安いため、マルハニチロなど水産大手が輸入量を拡大しており、日本人にとって身近な魚として認知が広がりそうだ。
日本ではなじみが薄いものの、ナマズの白身は欧米では好まれて食べられており、米国は世界的にも養殖が盛んな地域だ。日本はタイやインドネシアなど東南アジアを中心にナマズを輸入しているが、実は輸入量の99%がベトナムからである。米国産より価格が安いだけでなく、味や鮮度など質も米国産を上回っているという。
ベトナムでは広大なメコン川流域でナマズの養殖が盛んに行われており、その養殖環境の良さから200キロを超える大きさに育つこともある。そんなベトナムがナマズの輸出を拡大したのは1970年代以降だ。ベトナム戦争後に米国に移住したベトナム人が、現地でナマズの白身が日常的に食べられていることに目をつけたことがきっかけとされている。
安価で美味なベトナム産のナマズに多くの米国人が食いつき、ベトナムからの輸入量は急拡大した。ベトナムから米国へのナマズの輸入量は90年頃に約900トンだったが、2〜3年後には約8000トンに急増。2002年には1万6000トンを超えた。
だが、輸入量の急増と、米国産とベトナム産の価格差を問題視した米国内の生産業者は同年、ベトナム産のナマズがダンピング(不当廉売)に当たると指摘。関税を引き上げる緊急輸入制限(セーフガード)の発令を連邦政府に働きかけた。さまざまな政治的な圧力もあり、03年8月にはダンピング認定され、セーフガードが発動された。一連の米国とベトナムの攻防は「米越ナマズ戦争」とも呼ばれている。
こうした米国との軋轢(あつれき)もあってか、ベトナムはナマズの輸出先を欧州やアジアにシフトしており、日本への輸出量が拡大したのもこの一環ではないかとみる向きもある。
安価で美味を売りに、今後、さらなる需要拡大が予想される輸入ナマズ。ウナギだけでなく国産の白身魚までも淘汰(とうた)されないか不安もある。