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1日に88歳で死去した第80代警視総監、井上幸彦さんから平成6年、警視庁幹部と担当記者の懇親会で声を掛けられた。その数年前に井上さんは千葉県警本部長、筆者は県警担当の新米記者だった。普通は県警本部長は記者の名前など覚えていない。警視庁で再会して、フルネームで呼ばれて驚いた。
警視庁第6機動隊長だったときに、約400人の隊員のフルネームを覚えたという。声を掛けられて感激の涙を流した隊員は数知れない。田中角栄元首相も使った人心掌握術だ。
昭和12年、甲府市生まれ。父親も元警察官で、京大法学部で進路を決めるときに、仕事に打ち込む父の姿を思い出して警察庁を選んだ。「治安を守るという警察の仕事に魅力を感じた。一生かけても悔いのない、やりがいのある仕事だと」。亀井静香元自民党政調会長と同期の昭和37年入庁組だ。
朝鮮半島を担当する警視庁公安部外事2課(現・外事3課)の課長だったとき、韓国の野党指導者、金大中氏(後の大統領)が東京・飯田橋のホテルから韓国に連れ去られる「金大中事件」が起きた。韓国中央情報部(KCIA)による犯行だった。後に「被害者の金大中氏から本格的に話を聞くことができなかったことが残念で、歯がゆい」と述べ、主権侵害に憤った。