
国の財源問題を議論する際、経済対策や成長投資、社会保障、安全保障など必要支出の増大が焦点となりがちだが、見過ごされている重要な視点がある。それは無駄な支出を削減し財源を確保するという視点である。
家計や企業の財務では当然行われるこの取り組みが、国政の場で話題になることはなぜか少ない。時代の変化に伴い支出の優先順位が変わるのは当然であるにもかかわらず、その議論が不足している。
「私が属する医療の世界でも諸外国と比較すると無駄が多い」と精神科医の和田秀樹氏は指摘する。高齢化が進んだ現在、誰もが簡単に医者にかかれる国民皆保険制度には無駄が多いという。
大病院では臓器別専門科による治療が一般的だが、高齢者は複数の臓器に異常を抱えることが多く、その結果処方される薬の種類が非常に多くなる。この「ポリファーマシー」と呼ばれる多剤服用の有用性と副作用に関する研究がなかなか進まない。
海外では血圧を下げるだけでは公費が支出されず、保険会社も支払わない。5年後、10年後の脳卒中減少や死亡率低下を示す大規模比較調査の結果が必要だ。しかし日本ではこうした医学的根拠(エビデンス)がなくても保険が適用される。エビデンスのない治療が当たり前に行われており、調査を実施すれば医療費の大幅削減が可能だ。
75歳以上の高齢者に原則薬物治療を行わないスウェーデンでは男性平均寿命が世界1位(日本は6位)で、寝たきりの人口比率は日本の10分の1だ。和田氏は「海外の成功事例に学び、日本でも本当に有効な治療のみを行うべきだ」と訴える。ある医療統計学者の試算では、無駄な医療費を年間5兆円削減できる可能性があるという。