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ノーベル経済学賞候補と目される清滝信宏教授の理論は、なぜ今「時代遅れ」なのか。小幡績教授は、ケインズ理論と清滝理論を軸に、時代とともに変容した金融と実体経済の関係を問い直す。理論の美しさと現実の複雑さを切り離して論じることは、もはや許されない。
清滝教授が切り開いた「金融摩擦」と「信用循環」の理論は、バブル崩壊後の日本経済を説明するうえで極めて強力な武器だった。企業のバランスシートと資産価格の相互作用が投資や雇用を左右するという洞察は、多くの経済学者に衝撃を与えた。デフレ脱却の処方箋としても、その影響力は計り知れない。
しかし、金融システムはその想定と大きく変わった。銀行貸出だけでなく、市場型金融やシャドーバンキングが台頭し、マイナス金利下では中央銀行のバランスシートが膨張した。世界経済が経験した「ゼロ金利」と「非伝統的金融政策」は、従来の理論モデルでは捉えきれない新たな現実である。
小幡教授が「居酒屋でケンカを売る」と表現するのは、理論の一般性と現場の具体性との乖離に対する問題提起だ。ケインズ理論も、当時の大恐慌を打ち破る革命的な思考だったが、現在の金融主導型資本主義の前には有効性を失いつつある。理論が素晴らしいからといって、現実が従うわけではない。
経済政策の現場で必要なのは、過去の理論を金科律条のように奉ることではなく、新たな現実を説明できる思考の枠組みである。小幡教授の挑発的な問いは、経済学の羅針盤が猛スピードで回転している事実に目を向けろ、という警鐘にほかならない。理論と現実の隙間を埋める議論が、いま求められている。