
大阪地検は8日、元塾講師の野口瑞希容疑者(35)を偽計業務妨害罪などで起訴した。近畿大の入試を巡る替え玉事件で、教え子に成りすまして英検を受験し、その結果を使って出願したとされる。地検は認否を明らかにしていないが、捜査関係者によると、動機は「不合格者を出したくなかった」という趣旨の供述をしていたという。
起訴状などによると、昨年9月、野口被告は当時勤務していた塾の教え子だった男子受験生になりすまし、英検を受験。2級に合格し、その結果を利用して同年11月、近大の推薦入試に自身と男子受験生の顔写真を合成した写真データを使って出願したなどとしている。
捜査関係者によると、野口被告から男子受験生に替え玉受験をもちかけたとみられ、「指導するより自分が英検を受けたほうが手っ取り早いと考えた」という趣旨の供述もしていたという。
関係者によると、野口被告は事件当時、業務委託契約に基づき「個別教室のトライ天王寺駅前校」で塾講師をしていた。府警が5月18日に同容疑などで逮捕し、調べを進めていた。
近畿大の入試を巡る替え玉受験事件では、起訴された元塾講師がインターネット上で人工知能(AI)ツールを使い、受験生と自身の顔を合成した写真で出願していた。後に不正が発覚して合格が取り消されたとはいえ、入試時の本人確認では見抜けなかった。AI技術の進歩がめざましい中、専門家は「従来の確認方法だけでなく生体認証による確認システムの導入を検討すべきだ」とする。
捜査関係者によると、元塾講師はスマートフォンで利用できるインターネットのAIツールを使って2人の顔を合成したとみられ、その合成写真で近大に出願していた。英検では元塾講師自身の写真で受験していたため、資料を照合されても違いに気付かれないようにする狙いがあった可能性がある。
同じ合成写真は学生証に転用されたため、受験生の母親が違和感に気付き、事件が発覚。画像を見た関係者は「じっくり見比べれば違和感に気が付くような完成度」と粗さを指摘しつつ、髪形や輪郭は受験生に似ているため、「初対面でぱっと見た程度では写真の人物で間違いないと思ってしまうのではないか」とも話す。
実際、近大は試験当日に本人確認を行っていたが不正には気付けず、いったん合格としていた。
インターネットを検索すれば、「編集スキル不要」「簡単に顔合成」などとうたうサイトやアプリが多数見つかる。無料サイトでも合成したい顔写真を入力すると、数秒で作成が可能。髪形をどちらに似せるかなど特徴を細かく指定しながら画像を作成できるものもある。
こうした現状に、大学入試学会の理事長で大学入試に詳しい東北大の倉元直樹教授は、「公正な入試のため、厳格な本人確認は必須で顔や指紋など生体認証による本人確認システムの導入も検討していくべきだ」と試験官の目視による確認の限界を指摘する。新技術を用いた不正対策にはコスト面の負担が増えるものの、倉元氏は「今後、不正行為がさらに巧妙化する可能性があり、国が予算をつけるなどして対策を進める必要がある。技術的な対策に加え、不正を行うこと自体が許されないという社会的な倫理観を維持することも重要だ」としている。