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大阪・ミナミの喧騒からほど近い、労働者のまちとして知られる西成。JR新今宮駅や大阪メトロ動物園前駅前に立つと、スーツケースを引く外国人観光客のグループが、かつて日雇い労働者でにぎわった路地裏へと吸い込まれていく姿を目にする。マフラーやジャケットに身を包んだ彼らが向かう先は、近年急速に増えている「特区民泊」の建物だ。
釜ケ崎に隣接する山王エリアには数カ月前、黒壁の3階建て住宅群が完成した。合わせて19軒。不動産登記簿を確認すると、敷地は令和6年に分筆され、複数の所有権が中国・深圳在住の人物に移っていた。扉の表札には「流葉」「蒼蓮」といった、日本ではあまり見かけない漢字が記され、玄関には特区民泊の表示が貼られている。地元の女性は「どんどん増えてるよ」と驚きを隠さない。
特区民泊は国家戦略特区制度に基づき平成28年に始まった。全国の認定施設の9割以上が大阪市内に集中し、そのうち西成区には約27%にあたる2091施設(令和7年12月末時点)が所在する。住宅の一室を活用できるため、フロントや宿泊施設としての表示義務もない。昨年11月には台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁に中国政府が反発し、対日渡航自粛を呼びかける異例の事態もあったが、中国出身者によるビジネス展開は止まる気配を見せない。
だが、現場ではトラブルが絶えない。大阪市によると、令和7年度の民泊関連の苦情件数は昨年12月末時点で469件に達し、6年度の399件をすでに上回った。「観光客が路上にごみを放置する」「小さな子供が夜中に泣きわめく」といった地域住民の訴えが相次ぐ。市はこれまでの推進姿勢を一転させ、8年5月29日をもって新規申請の受付を停止すると決定。設備不足や苦情対応の不備といった違反に対しては指導を行い、改善が見られない場合は業務停止命令や認定取り消しに踏み切るとしている。
なぜここまで西成が中国資本にとって魅力的なのか。中国・福建省出身で30年ほど前に来日し、西成で不動産業を営みながら中国人経営者らの親睦団体「大阪華商会」の会長を務める林伝竜さん(61)は「ミナミの繁華街に近い割に土地の価格が安く、買収が容易。民泊施設を建てやすい」と解説する。かつて労働者による暴動も起きた土地柄だが、「外国人はそうした地元事情をさほど気にしない」と語る不動産業者もいる。市内に住む中国籍住民は令和7年9月時点で5万9789人と、10年前の約2.2倍。西成区に限っても4211人が暮らし、この5年間で約1.7倍に増えた。
元々、建設現場の労働者として西成に流れ着き、カラオケ居酒屋や不動産事業で成功を収めた林さんは「西成は『第2の故郷』。恩返しがしたい」と話す。だが、地元に長く暮らす日本人たちの目は冷ややかだ。西成で商売を続ける日本人女性は、民泊に泊まるインバウンド客の多くは飲食や買い物を難波などの繁華街で楽しむため、地元での消費は期待できないと指摘する。さらに、多くの賃貸住宅のオーナーが部屋を収益性の高い民泊に切り替えたことで家賃が上昇し、一般の労働者が住みにくくなっている実態があるという。女性は怒りを込めてこう語る。
「結果的に昔から住む日本人が苦しめられるようになった」
訪日客の回復で右肩上がりが続く民泊需要。宿泊者の約6割は外国人で、国籍別では米国が最多、中国・韓国など東アジアが35%を占める。インバウンドの波は、労働者のまちの風景を静かに、しかし確実に変えつつある。