t>

日本国内で「性差医学」や「性差医療」を推進する動きが本格化しつつある。これは生物学的な性差だけでなく、社会的・文化的な男女の違いも診断や治療、予防に反映させる試みである。
性差医療とは、性別による違いを科学的に解明する性差医学の成果を臨床に応用し、患者一人ひとりに最適な医療を提供することを目指す。男女で共通する疾患でも、発症頻度や症状、薬の効き方に違いがあることが明らかになってきた。
例えば、同じ病気でも性ホルモンの分泌変動やライフステージによって影響が異なり、これまでは見過ごされがちだった。婦人科や生殖医療を除けば、従来の医学教育や診療ガイドラインでは性差が十分に考慮されてこなかった。
その結果、特に女性の健康面で不利益が生じている。世界経済フォーラムとマッキンゼーのシンクタンクが2024年に公表した報告書によれば、女性は平均して男性より25%長い期間を「不健康な状態」で過ごしている。
同報告書は、この健康格差を解消すれば、女性の健康と生活の質が向上するだけでなく、世界経済を2030年までに年間少なくとも1兆ドル押し上げる可能性があると推計した。
経済産業省も2024年、女性特有の健康課題による国内の経済損失は年間3.4兆円に上ると試算。その内訳で最も大きいのは更年期症状の1.9兆円だった。
人口10万人当たりの患者数で男女差が2倍以上ある病気は少なくない。胃がん、痛風、十二指腸潰瘍、急性心筋梗塞は男性に多く、アルツハイマー病、高脂血症、くも膜下出血、慢性関節リウマチ、白内障は女性に多いというデータが示されている。