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「あ、派遣ってボーナスないんだっけ。かわいそー」。悪気のない一言が突き刺さる。職場での何気ない会話で同僚が放ったこの言葉に、53歳で派遣社員として働く女性は、その場では笑ってやり過ごすことしかできなかった。20年もの間、働き続けてきた彼女にとって、この言葉は自身の立場の脆さをまざまざと見せつけられる出来事だった。
就職氷河期世代の彼女は、新卒時に正社員としての就職がかなわず、以来20年間にわたって派遣社員として働き続けてきた。「いずれ正社員になれる」という淡い期待は数年で消え去り、気づけば同じオフィスで机を並べる正社員の同僚とは、給与や福利厚生で大きな隔たりが生まれていた。契約更新のたびに雇用が途切れる不安と隣り合わせの生活は、彼女の心を少しずつ蝕んでいった。
2018年に働き方改革関連法が成立し、同一労働同一賃金が義務化された。しかし現実は、彼女の賃金が1円も変わることはなかった。制度が変わっても、派遣会社と企業の間の慣行は変わらない。うまくいかない理由を会社に問いただすこともできず、彼女はただ黙って現状を受け入れるしかなかった。
食費を削り、1日1食の日々が続く。昼食は抜き、夕食はスーパーの割引シールが貼られた総菜だけという日も少なくない。わずかな貯蓄は底をつきかけ、病気になったら終わりだという不安が常に付きまとう。健康を維持すること自体が仕事のような生活は、心身ともに大きな負担となっていた。
ある夜、疲れ果てた彼女の口から漏れたのは「私は死ぬまで働くしかない」という言葉だった。派遣社員の”沼”から抜け出せないまま、今日も彼女は働き続ける。年金だけでは生きていけない未来を前に、53歳の戦いは終わりを見せない。