
日本政府観光局の調査によれば、2025年3月の訪日外国人数は349万7600人を記録し、過去最高を更新する勢いを見せている。インバウンド消費額も8兆円を超え、観光業界は未曾有の活況に沸く一方で、現場の人手不足やDXへの対応が急務となっている。こうした激変する経営環境の中で、東武ホテルマネジメントの三輪裕章社長は、テクノロジーの積極的な活用と現場の変革を力強く提唱している。ホテル業界が直面する課題をどう乗り越えるべきか、三輪氏が語る戦略には観光インフラを支えてきた知見が凝縮されている。
三輪社長は東武鉄道での長年の労務経験を振り返り、経営層と従業員の信頼関係こそが変革の礎であると強調する。かつての鉄道事業におけるワンマン運行の拡大や駅の無人化といった合理化も、現場との対話があったからこそ実現できたと同氏は説く。三輪社長は「一方的にやりたいことだけを進めてしまうのは危険で、やはり自分の考えや方針をきちんとチェックしてくれる存在がいることによって、暴走や誤りを防ぐことができます」と語る。こうした労使のバランス感覚こそが、未曾有のコロナ禍からの迅速な回復を支える大きな要因となったのである。
今後のホテル経営において、三輪社長はAIや生体認証といったテクノロジーの役割が飛躍的に拡大すると予測している。現状の経験則に基づく運営から、AIによる高度なパターン分析への移行を目指しており、業務効率化への期待は極めて大きい。三輪社長は「AIの導入が進めば、将来的にはそれほど多くの人員を必要としなくなる可能性もある」としつつも、スタッフが本来注力すべき「おもてなし」に集中できる環境作りを重視している。さらに入国審査時の生体認証を活用した決済インフラの整備など、国を挙げた抜本的なDXの必要性も強く訴えている。
キャッシュレス決済の普及に伴い、顧客データの管理と活用は観光業の新たな勝負どころとなっている。三輪社長はクレジットカードのタッチ決済普及によるデータの流れの変化に注目し、デジタル時代の競争力の源泉を見据えている。三輪社長は「今や、データを独占している会社が最も強い時代です。どの業界でも、データをいかに管理・活用できるかが勝負になってきている」と語り、利便性向上のためのデータバンク構想も視野に入れる。また、自社アプリを活用し地元飲食店と連携したインバウンド還元策など、地域経済への波及効果を狙った独自のビジネスモデルも推進中だ。
社長就任から2年、三輪社長はホテル業界の新たな可能性に手応えを感じながら、独自の経営哲学で組織を牽引している。短期的な利益追求に走るのではなく、実業を通じた社会貢献と、共に働く社員のやりがいを何よりも大切にしているという。三輪社長は「何事もやってみようという姿勢で臨んでいます」と不退転の決意を語り、座右の銘として石田禮助氏の「粗にして野だが卑ではない」という言葉を挙げる。緻密なデータ戦略と大胆な現場改革を両立させる三輪社長の挑戦は、日本の観光業が次のステージへ進むための重要な羅針盤となるだろう。
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