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平成25年9月、当時社長だった田中久雄氏は、副社長の久保誠氏にこう切り出した。「極秘の相談があります。少し『バイセル取引』を増やしたいと思っています」
バイセル取引とは、自社が大量に仕入れた部品を、製造委託先の海外メーカーに販売する取引だ。最終的に完成品を引き取るため売上高や利益は相殺されるが、一時的に利益を水増しできる。パソコン事業部門の営業赤字を圧縮するための不適切な取引だった。
久保氏は田中氏をこういさめた。しかし、第三者委員会の報告書は、同年度も利益のかさ上げが続いたと指摘する。
同様の取引は前任の佐々木則夫氏時代にも行われた。部品購入を持ちかけられた海外メーカーのトップは異常な取引だと指摘し、「会計処理に疑義をもたれる懸念がある。そのリスクを覚悟した指示か」と問いただした。
こうした忠告は東芝の歴代トップに届かなかったのか。報告書では、田中氏の社長就任後、26年ごろから残高を増加させない方針が打ち出されたと記述される。田中氏は問題を認識し、軟着陸を試みたとみられる。
しかし現実には、今年2月に証券取引等監視委員会から報告命令が下るまで、歴代トップは抜本解決に動かなかった。田中氏は21日の会見で不正指示を否定したが、自浄作用の欠如は免れない。
後任の室町正志会長は21日の会見でこう述べ、社内制度改革を急ぐ考えを示した。社内で「チャレンジ」と呼ばれた高い利益目標をやめ、損失先送りにつながる不適切取引の排除を徹底する方針だ。
不適切取引の排除は企業として当然だが、高い目標設定をやめ容易な目標ばかりになれば、社員のモラールが衰え成長が望めなくなる副作用もある。
かつて東芝には土光敏夫氏の「チャレンジ・レスポンス経営」があった。各事業部が目標に挑み、未達成時は社長に説明する手法で、幹部との信頼関係を深めた。しかし、東芝は健全な利益追求をゆがめ、将来の成長機会を失った。支払う代償はあまりに大きい。