t>

東京の再開発ラッシュの中で、渋谷から急行で3駅の京王井の頭線沿線に、昭和の趣を残す静かな住宅街が今も広がっている。東京都杉並区の永福町・西永福だ。大規模な再開発の波に乗らない理由は、鉄道開通の遅れや風致地区指定、高級住宅地の形成といった独自の歴史に根ざしている。
地元関係者は「無賃優待パスでも住民増えず」と証言する。交通事業者が住民向けに優待パスを用意しても人口流入にはつながっていないという意味で、駅前の小さな商店街や路地裏の住宅地は、利便性より暮らしやすさを優先してきた結果だ。
「今も良好な住宅環境が残る」と評される西永福エリアは、風致地区に指定されたことで建築規制が強く、マンション開発や商業施設の建設が抑えられてきた。そのため、戦前からの邸宅や庭木の多い家並みがまとまって残り、ほかの沿線地域とは異なる落ち着いた景観を形成している。
さらに、井の頭線の開通が周辺地域より遅れたことも再開発が進まなかった背景にある。鉄道開通前からこの地は自然環境に恵まれた別荘地や富裕層の住宅地として知られ、開通後も多くの地権者が土地を手放さなかった。こうした歴史が、現在の「超便利タウン」でありながら開発圧力がかかりにくい構造をつくりだした。
結果として永福町・西永福は、駅から数分の場所に昭和の路地が残る希少なエリアとなっている。再開発によって街を変えるのではなく、良好な住環境を守り続けるという選択が、この街の価値を高めている。