t>

「ジャムといえば瓶」という固定概念を覆すボトルタイプのジャムが急速に普及している。アヲハタ(広島県竹原市)が2022年8月に発売した「Spoon Free(スプーンフリー)」の出荷額は、発売から3年間で約3倍に成長し、現在も拡大を続けている。
※商品分類上は「フルーツスプレッド」だが、本記事では便宜上「ジャム」と表記する。
スプーンフリーは片手で開閉できるボトル入りジャムで、スプーンを使わずにパンに直接かけられる。甘さを控えながら果肉の食感を残すため、果肉の大きさを調整。ラインアップはいちご、オレンジ、ブルーベリー、トロピカル、りんご、ぶどうの6種類で、参考小売価格は365円~となっている。
なぜ瓶以外の容器を選んだのか。背景にはジャム市場の長期的な縮小がある。
総務省の家計調査(2人以上世帯)によると、世帯当たりの年間購入数量は2000年と2024年で約2割減少。さらに購入層の高齢化が進み、同社マーケティング本部の中川理那氏は「メインの購入層は50代以上で、特に70代が多い。ユーザーの高齢化が課題だった」と説明する。
若年層がジャムを買わなくなった理由の一つが瓶だった。同社の定期調査で「瓶が使いづらい」が上位に挙がり、若い人ほどその傾向が強かった。「重くて扱いにくい」「スプーンが必要で洗い物が増える」といった声が寄せられた。
共働き世帯の増加で朝の準備時間が限られる家庭では、こうした手間が敬遠されやすい。そこで投入されたのがスプーンフリーだった。
発売数年前から構想が始まり、アヲハタとしては異例の長期開発期間を要した。容器変更は容易ではなかった。紙やチューブなど複数の案を検討した末、風味を保てるプラスチックボトルに決定した。
当初は社内にも慎重論があった。社員の間でも「ジャムといえば瓶」という意識が強く、瓶以外の商品が受け入れられるか懸念された。開発を後押ししたのは、定期調査で明らかになった「瓶が使いづらい」という消費者の声だった。マーケティング本部の松本翔吾氏は「ジャムは食べたいが瓶が面倒、というニーズが見えていた。その悩みを解決してこそジャムメーカーだと社内で議論を重ねた」と振り返る。
開発に伴い中身も作り直す必要があった。瓶入りジャムは大きな果肉が特徴だが、出し口の狭いボトルでは果肉が大きいと詰まる。小さくしすぎるとソース状になり果肉感が薄れる。ミリ単位の調整を重ね、使いやすさとアヲハタらしい果肉感の両立を目指した。
「さよならスプーン。」というコピーを採用し、商品名にも価値を込めた。フレーバー展開も戦略的で、いちご、オレンジ、ブルーベリーの3種からスタートし、パン以外の用途を広げる「トロピカル」や子ども向けの「りんご」「ぶどう」を追加。最も人気が高いのは瓶入り商品と同じく「いちご」だという。果肉を大きくできない一方で、味が全体に広がりやすいのがボトルタイプの強みで、パンだけでなくヨーグルトに混ぜやすい点も評価されている。