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自民党の情報通信戦略調査会は16日、テレビ局など放送事業者の資本政策の在り方やガバナンス強化策について検討するよう総務省に要請した。投資家が上場企業を評価する目安となっている「自己資本利益率(ROE)8%」が、放送事業者にも求められ、物言う株主(アクティビスト)による影響力行使の材料となっていることに対する問題意識がある。
ROEは純利益を自己資本で割った数値だ。達成する義務はないが、上場企業の間では8%が指標として定着している。だが、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)を始め民放キー局の親会社は現状ではいずれも8%を下回っており、複数社が経営計画で「8%」を目標に打ち出している。
放送法は放送事業者に対し、災害時でも放送設備を維持する義務を課している。維持費や有事に備えた内部留保はROEを下げる要素だ。
調査会の大岡敏孝事務局長は会合後「放送事業者には一定の制約が課されている。有識者に今後の在り方を幅広に議論していただきたい」と述べた。秋の臨時国会までの対応を求めている。
放送事業者の資本政策の在り方が見直される可能性が出てきた。背景には、テレビ局の基幹業務である放送の充実を妨げるとの懸念がある。放送事業者は災害報道をはじめ公益的な役目も担うが、設備の維持管理など費用負担は大きい。ROEを重視し資本効率に縛られることで、社会的使命を十分に果たせなくなる恐れもある。
多くの物言う株主(アクティビスト)がROEを投資判断の材料としており、上場企業に資産売却などを迫る事例が多発している。フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は今年2月、村上世彰氏が率いた旧村上ファンド系の投資グループの求めに応じる形で不動産事業への外部資本導入を決めた。電力や鉄道などのインフラ企業も対策を余儀なくされている。
上場企業は資本効率の向上が求められる立場にある。ただ、サービス業などと比べ、インフラ企業は設備投資や維持費がかさみ、ROEが低くなりやすい。
調査会の大岡氏は「東京証や金融庁はROEの一律適用をしていないが、(ROEをもとに)アクティビストが要求を行うケースも見受けられる」と指摘する。
日本でROEが広く認識されたのは2014年、一橋大大学院教授だった伊藤邦雄氏らが経済産業省の研究会でまとめた最終報告書「伊藤リポート」がきっかけだ。欧米企業に比べてROEが低いことが課題とされ、8%の目標が打ち出された。15年には、金融庁と東証が上場企業の行動規範「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」を策定し、株主を意識した経営を促した。東証の市場改革なども相まって日本株は上昇。「8%」が定着した経緯がある。
ただ、揺り戻しも起きている。株主を重視するあまり、成長投資が停滞したとの指摘があり、今夏改定のコードでは「短期的な財務指標」にとらわれない、大胆な成長投資を求める修正を行う。
立教大の砂川浩慶教授(メディア論)は「何のために放送事業者にROE8%が必要なのか明確になっていない。8%が目的化し、本来の事業がおろそかになる懸念がある」と指摘する。単純に資本効率を上げるには、自社制作番組の割合を減らしコストを圧縮することが一案となるが、それでは本来の役割を果たしにくくなる。
砂川氏はROEに関する検討は評価する一方、「与党が放送事業者に『恩を売った』ような形になってもいけない」と述べ、政権とメディアの適切な距離感が必要だとの認識も示した。