t>

30年前の阪神大震災で壊滅的被害を受けた神戸港が、新たな港湾のあり方を模索している。1868年に開港し、一時は世界2位のコンテナ取扱量を誇った同港は震災後、国際物流拠点として国が指定する「国際コンテナ戦略港湾」の一つに。2017年までに震災前の取扱量を回復したものの、往時の存在感を取り戻すには至っていない。今後、ターミナル設備の利便性向上やクルーズ船誘致などを通じて国際競争力を強化する方針だ。
神戸港が開港したのは1868年1月。「東洋一の港湾としての威容」と神戸市の資料に記されている。
コンテナ取扱量は1976年と77年、米ニューヨーク港に次いで世界2位となった。震災前のピークは94年の292万個(TEU=20フィートコンテナ換算)で、世界6位。当時は複数の海外港を結ぶハブ(拠点)の役割を果たしていた。
しかし震災で岸壁が沈下し、コンテナを扱うクレーンも倒壊して港湾機能は停止。95年の取扱量は146万個と前年の半分にまで落ち込んだ。世界順位は24位まで下がり、横浜港などに抜かれて国内1位の座から転落した。港湾機能を復旧させるだけで約2年かかり、海外貨物は中国や韓国の港に流出した。
復活の契機は2010年。神戸港が大阪港と一体の「阪神港」として、首都圏の「京浜港」(東京港、川崎港、横浜港)とともに国際コンテナ戦略港湾に指定された。これにより航路の開拓や、港湾設備の機能強化などに向けた国の支援を受けられることになった。
神戸港や大阪港などを一括運営するために国と神戸市、大阪市などが出資する阪神国際港湾株式会社(神戸市)は、輸出入貨物を神戸港経由に変更した船会社や荷主を支援する制度を拡充した。
こうした取り組みは成果を挙げている。超大型船舶が接岸できるよう岸壁の改良と耐震化が進み、神戸港と地方港を結んで輸出入貨物を運ぶ「フィーダー輸送」が勢いづいた。神戸港のコンテナ取扱量は17年に震災前を上回り、翌年には過去最多の294万個を記録した。
ただ直近の取扱量(22年速報値)は中国・上海が1位で、上位をシンガポールや韓国・釜山など海外勢が占める。日本は東京42位、横浜70位、神戸72位。すでに上海や釜山などをハブ港とする国際物流ルートが確立し、関西の主力産業だった繊維や家電製品の生産拠点も海外に移った。
神戸市の危機感は強い。市の審議会が17年に示した将来構想は、流通から加工、製造まで1カ所で担う拠点の構築やクルーズ船寄港による交流人口獲得などを掲げた。
市は、水素などを活用した港湾施設の脱炭素化やDX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上を進め、「世界から選ばれる港」を目指す。担当者は「神戸港には多様な物流ニーズに応えられる技術力がある。複数ターミナルの一体的運営などによって利便性を高め、競争力を強化したい」と話した。
阪神大震災や関西経済の地盤沈下でかつての世界的な地位を失った神戸港だが、国内では有数の拠点港であり続けている。海上自衛隊の潜水艦が建造されることでも有名だが、産業に欠かせない鉄鋼業も港の発展を支えてきた。
1905年に神戸製鋼所が神戸市内で創業。戦後の50年には同じく神戸に本社を置く川崎重工業から川崎製鉄(現JFEスチール)が独立し、大手鉄鋼メーカーの工場が神戸港に軒を連ねた。
神戸製鋼の神戸製鉄所(同市灘区、現神戸線条工場)にあった「神戸第3高炉」は震災で停止したが、2カ月半後には再び火が入り、「復興のシンボル」といわれた。
この高炉は2017年、粗鋼生産を加古川製鉄所(兵庫県加古川市)に集約するため廃炉になった。鉄鋼業の中心地としての役割は、姫路港(同県姫路市)をはじめとする播磨工業地域が引き継ぎ、日本製鉄などの生産拠点が集積する。
国の工業統計調査と経済センサス-活動調査によると、1970年代まで長らく兵庫県は都道府県別で鉄鋼業製品出荷額1位だった。80年代からは愛知県などに抜かれたものの現在も2位を占める。神戸港で培われた技術が産業を支えている。
神戸港に期待されるのは物流拠点としての役割だけではない。関西経済同友会は、大阪湾岸と瀬戸内を結ぶクルーズ船の運航による広域観光の実現を目指し、関西国際空港、神戸港と各観光拠点を結ぶクルーズ船の周遊ルートを提案。訪日客に人気が高い「瀬戸内国際芸術祭」と連動する案もある。
大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)で4月に開幕する2025年大阪・関西万博や、30年秋にも見込まれるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)開業を見据え、訪日客の需要を取り込む狙い。
関西では訪日客数が過去最多を更新する一方、観光振興策の広域連携ができておらず、訪日客が関空から京都を経由し、東京に流出。大阪湾から瀬戸内海を周遊するルートを開設できれば、広域観光による経済波及効果が期待できる。
ただ、実現には課題も多い。関西と瀬戸内をつなぐネットワーク構築には通常の経済活動の圏域を越えた連携が必要だ。クルーズ船事業者が個別に所有・運営する船やサービスを共通化し、航行区域や港湾ルールを巡り地元の交通事業者などとの調整も求められる。(井上浩平)