
夏の猛暑が年々厳しさを増す中、茨城県北部の福島県境に位置する北茨城市が「関東一涼しい街」として脚光を浴びている。あるオンライン記事をきっかけに、テレビ番組や旅行サイトで相次いで紹介され、その評判が広まった。都心から日帰り可能な観光地や移住先として、同市は「涼しさ」を前面に打ち出したPRを進めている。
市によると、この評判の発端は、東洋経済新報社が3年前に公開した「関東地方の夏涼しい市区ランキング」だった。平成3年から令和2年までの7月・8月の平均最高気温を低い順に並べたところ、北茨城市は関東全体の平均31.1度より約4度低い27度で1位となった。
水戸地方気象台によると、北茨城市で観測が始まった1978年から2024年4月までの間、最高気温35度以上の「猛暑日」はわずか5日しか記録されていない。これは県内最多の600日以上を記録した古河市や、157日の水戸市と比べて格段に少ない。
昨年8月5日、古河市で県内最高の40.6度が記録された一方、北茨城市の最高気温は32.4度と8度以上低かった。気象台は「海上から比較的涼しい空気が流入しやすく、気温の上昇が抑えられる。風通しの良い地形や山地の多さ、都市化の影響が小さいことなどが要因」と分析している。
北茨城市は観光資源が豊富な街としても知られる。茨城を代表する食材・アンコウが水揚げされる漁港を有し、昨年12月には「常陸大津の御船祭」がユネスコの無形文化遺産に登録された。
童謡「赤い靴」「七つの子」で知られる詩人・野口雨情の生誕地でもあり、太平洋に面した五浦エリアは、思想家・岡倉天心が晩年を過ごした場所として有名だ。
茨城県天心記念五浦美術館の小泉晋弥館長は「天心は波のしぶきの美しさを手紙に書き残すほど五浦が気に入っていた。夏の涼しさが天心や横山大観ら弟子たちの創作活動を支えたことは確かだ」と指摘する。
気象庁は今夏も全国的に平年より気温が高くなると予想し、最高気温40度以上の「酷暑日」を予報用語に新たに追加した。
移住政策を担当する北茨城市企画政策課の担当者は「〝酷暑元年〟の今年、冷涼な気候が売りになる。子育て世帯から高齢者まで、夏の涼しさを幅広くPRしたい」と語る。商工観光課の担当者は「花園渓谷」などのスポットを挙げ、「涼しさを体感してもらえたら」と期待を寄せる。
豊田稔市長も「阿武隈の山々と太平洋の潮風がもたらす天然の涼しさは観光や移住の地として最適」とアピールしている。(森山昌秀)