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台湾出身の女性歌手、テレサ・テン(鄧麗君)さんが42歳の若さで亡くなり、8日で30年が経過した。「アジアの歌姫」として人気を博した彼女の楽曲は、日本や東南アジアに加え、軍事的緊張が高まる中国でも根強い人気を誇る。実兄で台湾軍退役少将の鄧長富さん(74)が産経新聞の取材に応じた。
鄧長富さんによると、8日はテレサさんが眠る台北郊外の墓園「金宝山」で追悼音楽会を開く。10月には、療養中の1995年5月に病死したタイ・チェンマイで追悼イベントを開催する。
さまざまな言語で1千曲以上を歌ったテレサさん。中でも本人のお気に入りは1986年に日本で発売され200万枚の大ヒットを記録した「時の流れに身をまかせ」だったと鄧さんは振り返る。同曲の中国語版も「特に好んで歌った」という。
中国当局が民主化運動を武力弾圧した1989年の天安門事件の直前、テレサさんは香港で学生運動を支援するコンサートに出演。「軍による統制に反対する」と書いた色紙を首から下げ、台湾で1950年代に流行した反中国共産党の歌をカバーして「民主の火を燃やそう」と熱唱した。
しかし鄧さんによると中国では現在、国営中央テレビが特集番組を放送するなど、テレサさんの楽曲への規制は行われていない。鄧さんは退役した2000年以降、「1年に2回ほど大陸(中国)に渡航」し、現地のファンと交流している。中国各地で27のファンクラブが活動しているという。
改革開放が進められた1980年代の中国では、テレサさんの楽曲が若者の間で爆発的に流行した。香港から海賊版カセットテープなどが大量に流入したためだ。鄧さんによると、テレサさん自身も「大陸を訪れて実情を理解したいと考えていた」。だが天安門事件の影響で願いは実現しなかった。現在、中国では情報統制により天安門事件を知らない人も多く、当局はテレサさんを政治的脅威として認識していないようだ。
テレサさんは、国共内戦に敗れ台湾に逃れてきた中国大陸出身の外省人が住む集落「眷村(けんそん)」で育った。ラジオで覚えた流行歌を隣人たちに歌って聴かせる中で才能を認められ、「歌唱コンクールに出場するたび優勝」(鄧さん)したことがキャリアの出発点だ。
テレサさんは外省人の2世として「私は中国人」と発言する一方、「民主」と「自由」を希求した。存命なら72歳。強権体制が強まる現在の中国や、その軍事的脅威にさらされる台湾をどう見ただろうか。(台北 西見由章)