
浜松市の銘菓として知られる「うなぎパイ」は、1961年の誕生から現在に至るまで職人による手ごねの製法を守り続けている。春華堂が製造するこの菓子は年間でおよそ1億本にものぼるが、そのすべてが熟練の技によって支えられている。生地を直接手でこねる作業は過酷な力仕事であり、長らく現場は暗黙のうちに「男の仕事」であるとされてきた背景がある。
そのような伝統的な職人の世界に飛び込み、自らの力で新たな道を切り開いたのが清野麻由美さん(51)である。かつては男性のみが担うものとされてきた製造現場において、彼女は周囲の固定観念を覆すべくたゆまぬ努力を重ねてきた。初の女性職人として認められるまでの道のりは、まさに既成概念との戦いであったといえる。
清野さんは現場での姿勢について、「できることは全部やる」と語り、日々の業務に真正面から邁進してきた。この強い決意があったからこそ、彼女は厚い壁を打ち破り、職人としての確固たる地位を築くことができたのである。現在では、後進の女性たちにとっても希望を与える象徴的な存在として、現場で大きな信頼を集めている。
春華堂の職人組織には厳格な四つの階級が存在し、伝統を維持するためのピラミッド型の体制が敷かれている。最高位である「師範」を筆頭に、「宗家」、「範士」、そして30人あまりが所属する「錬士」という序列だ。清野さんは現在、この「錬士」の一人に名を連ねており、伝統の味を次世代へとつなぐ重要な役割を担っている。
力仕事でありながら極めて繊細な感覚も求められるうなぎパイの製造は、まさに職人の技が生命線となっている。かつては男性優遇の風潮が強かった職人の世界において、清野さんの活躍は組織のあり方そのものに一石を投じた。伝統を重んじながらも新しい風を取り入れる姿勢が、老舗企業の持続的な成長を支える鍵となっている。