t>

正月に歳神様をお迎えする「すす払い」に代表される年末の大掃除。その常識を覆す「夏の大掃除」がメーカーや売り場で活発に提案されている。油汚れは暑さでゆるみ、水回りは乾きが早く合理的。夏休みを利用した子供の教育や自由研究としても推奨され、忙しい年末の苦行からの解放と涼を感じる清掃体験が注目を集めている。
花王が室温30度(夏想定)と20度(冬想定)で油汚れの落ち方を比較した実験では、明らかな差が現れた。キッチン用クリーナー「マジックリン ハンディスプレー」を吹き付けてひと拭きした結果、夏条件では9割方の汚れが落ちたのに対し、冬条件では半分ほど残った。温度が汚れ除去効率に直接影響することを示している。
「一年を清々(すがすが)しく納めたいとの日本文化から、年末の需要が最多であることに変わりないが、夏が掃除に適していると多くの方が実感しており、夏の掃除用品の売れ行きは確実に伸びている」と、ホームセンター大手カインズ広報部の鈴木ゆう子さんは語る。同社の旗艦店・吉川美南店(埼玉県吉川市)では6月から特設売り場を設置し、掃除用洗剤や手を汚さずに絞れるモップ、折り畳みバケツなどオリジナル道具も充実させている。
カインズが顧客コミュニティーサイト「カインズDIYスクエア」で実施した夏の掃除アンケートでは、回答者の71%が「夏の大掃除にメリットを感じる」と答えた。理由は▽カビ・ダニ対策ができる▽カーテンなど大物が乾きやすい▽水回りや屋外掃除がしやすい▽汚れが落ちやすい▽夏休み中に家族が参加しやすい——の順に多かった。
花王は全国の量販店と連携し「はじめよう!夏の大そうじ」キャンペーンを展開中。7月に特設サイトを開設し、子供の夏休みの自由研究テーマとして「汚れ研究員になろう!」コーナーを設けた。家庭内のホコリや皮脂などを粘着テープで採取・観察し、サイトからダウンロードした調査シートに貼り付けて分析する内容だ。
教育評論家の親野智可等氏監修のもと、掃除が思いやり、責任感、自己管理力といった非認知能力の育成に役立つと位置づける。花王事業PR戦略部の大家千亜紀さんは「ゆっくり時間が取れる夏休みは絶好のタイミング。掃除の後は、きれいにしてくれてありがとうとほめてあげてください。子供の達成感、親子の絆が深まる」と話す。
同社はゲームを通じて掃除の基本知識や裏技を学べるよう、人気のホラーゲームに着目。ゲームコンテンツ「しずかなおそうじ」(ニンテンドースイッチ版・200円)のダウンロードを23日に開始した。昨夏にZ世代向けに制作した第1弾が今年5月、日本の「YouTube Works Awards」で最高賞を獲得。新作では「こわさひかえめモード」も用意し、怖がりな子供でも楽しめる配慮をしている。
平成6年発売のロングセラー「クイックルワイパー」は昨年末に6000万本出荷を突破。柄を4分割して箱に詰めた設計が、身長に応じて長さ調整できる利点を生み、「初めてのお掃除」道具としても提案している。大家さんは「短くすれば未就学児も使える。洗剤やスポンジ、水洗い不要で簡単にできる網戸掃除がおすすめです」とアドバイスする。
段取りを考え足腰と手先を使う大掃除は、教育効果に加えて認知症予防にも効果が期待される。暑い夏だからこそ、腕をまくって清掃に取り組み、涼しさと達成感を得る新たな習慣が広がりつつある。
本稿は、メーカーや小売りのデータ・取材に基づき、夏の大掃除の実態と効用をまとめた。産経新聞が独自に検証した情報を基に構成している。
年末の慌ただしさに追われる前に、この夏、家族で大掃除に挑戦してみてはいかがだろう。清々しい暮らしは、猛暑を乗り切る知恵でもある。(重松明子)