
「スマホ農場」とは、SNS上で実態のない閲覧数を人工的に作り出す拠点だ。記者が仕組みを解説するユーチューブグループに取材を申し込むと、18歳の男子高校生(当時)から返事が来た。彼は「18歳で都内の高校3年生。春から理系の難関私立大に進みます」と自己紹介した。記者が自身のXアカウントを教えると、1分も経たずに投稿の表示回数が8千件近く跳ね上がった。
彼によると、茨城県つくば市周辺の3軒の建物に、1千台以上のスマートフォンや基板を集め、パソコンにつないでユーチューブ再生やXの「いいね」を繰り返しクリックしているという。拠点は二重扉の先に部屋があり、天井近くまでの棚が60台並び、スマホや基板が冷却用の特殊な液体に浸されている。赤や黄色のライトが点滅し、24時間稼働しているという。取材は2日間で計8時間に及んだ。
再生数や表示回数はユーチューバーや一般企業に販売され、料金はユーチューブ再生1千回で175~750円だ。2024年から運営を始め、年間の注文件数は「数千万~数億単位」で、売上額は非公開。こうした「農場」は詐欺やサイバー攻撃、プロパガンダ拡散にも使われ、欧米や東南アジアで摘発が相次ぐ。ウクライナでは23年に約20カ所が摘発され、約15万枚のSIMカードが押収された。日本では摘発例がないという。
彼は各SNSの利用規約に反する認識はあるとした上で、「高い値段で数値が売買されているのは問題だ。そういうビジネスを滅ぼすため、利益は考えずに売り出している。一度、自分たちが悪に染まる必要がある」と語る。取材終盤、今年2月の衆院選で、ある候補者の街頭演説動画に「高評価」を押すよう依頼があったと明かした。SNSプラットフォームはもはや中立的な場ではなく、政治性や公共性を帯びているが、ユーザーはそれを変革する意識を持てずにいる。
「世論誘導なんて簡単にできちゃいますけどね」と18歳が軽く言う姿に、記者は怖さを感じた。表示回数や「いいね」が人工的に大量生産できる今、私たちが"世論"と信じるものは脆い基盤の上にある。民主主義を脅かす世論工作が大衆化され、善意の普通の人も感情を刺激されて拡散の担い手になる。専門家は「仕組みを知ること」を防衛策に挙げるが、生成AIの進化で個人のリテラシーだけでは対処しきれない段階にある。
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