
フリーランスから正社員に戻る人が増えている。転職支援サービス「リクルートエージェント」の仲介実績では、2024年4~9月に正社員への転職数が5年前の2.8倍に達し、「doda」でも同期間で2.7倍に上った。
一方で、フリーランス市場そのものは拡大している。ランサーズによると、2024年のフリーランス人口は1303万人で10年前と比べて約40%増えた。市場が成長しているにもかかわらず、正社員に戻る人が急増している。この「キャリアの逆流」の背景には何があるのか。
フリーランス向け人材サービスを展開するHajimari(東京都渋谷区)でも、正社員への転換支援実績が直近1年で250%(3.5倍)増加した。同社の人材紹介事業責任者の藤井健二郎氏は、背景に2つの要因を挙げる。
1つはコロナ禍の反動だ。2020~21年にIT需要が急増し、経験の浅い人材でもフリーランスになりやすい環境が生まれた。しかし2023年以降、市場の成長鈍化や収入面の厳しさに直面し、正社員に戻りたいという相談が増えてきたという。
もう1つの要因は、AIの台頭だ。「面談をしていると、ほとんどの方がAIへの不安を感じている。先が見えないことが不安の源になっている」と藤井氏は語る。
藤井氏によると、正社員に戻る人には大きく分けて4つのパターンがあるという。スキルが十分でないまま独立した20~30代の若手、ライフステージの変化で安定を求める40代、AIや市場の変化に敏感に反応する層、そしてプロダクトや組織に深くコミットしたいと考える上流志向の層だ。
動機はさまざまだが、共通しているのは、フリーランスの収入構造がイメージほど恵まれていないという現実だ。
フリーランスは「稼げる」というのも間違いではなく、実際にスキルの高いエンジニアであれば、月単価90万円以上の案件もあり、年間売上は1000万円を超えるケースもある。HajimariがITフリーランスを対象に実施した調査でも「年収1000万円は余裕で稼げる」という回答が38%に上った。
しかし、この数字をそのまま会社員の年収と比べることはできない。社会保険料の会社負担分、退職金、有給休暇、賞与など、会社員が享受するこれらの待遇を、フリーランスは全て自力で賄わなければならない。
休めば収入がゼロになり、営業活動や請求業務も無給の労働だ。「会社員の1.5~2倍は稼がないと同じ生活水準にならない」と言われるのはこのためで、売り上げ1000万円でも額面の印象ほど余裕はない。
クラウドソーシングサービスを展開するランサーズ(東京都渋谷区)の調査でも、収入に「満足している」フリーランスは32%にとどまる。人材紹介を手掛けるギークス(東京都渋谷区)によると、1人当たりの紹介案件数が減少傾向にあり、案件の奪い合いが続く中、収入面の不安は正社員回帰の大きな動機になっている。
急速に進化するAIの影響も大きい。Hajimariでは、生成AI関連のフリーランス案件単価は他職種に比べて月10万~20万円高い傾向があり、要件定義や設計といった上流工程の求人は、この1年で10%増加した。一方で、コーディングなど下流の実装系業務は単価が下がり、求人数も5%減少している。
この傾向は、IT領域に限らない。世界最大のフリーランスプラットフォームを運営する米Upworkのデータによると、生成AI登場後にライティングの求人が33%減少するなど、AIに代替されやすい定型業務の縮小が確認されている。
AIがコードや文章を生成できるようになったことで、仕事に求められる能力が変化している。例えば、エンジニアの役割は自らコードを書く「作り手」から、AIに的確な指示を出してプロジェクト全体を統括する「設計者」へと移りつつある。何を作るか、なぜ作るかを判断する上流工程の価値が相対的に高まっている。
だが、上流の仕事をこなすには、下流の経験が不可欠だ。コードを書いた経験があるからこそ、AIへの指示が的確になる。フリーランスには教育や研修の機会が乏しく、間違いを指摘してくれる先輩や仲間から学ぶ環境もほとんどない。