t>

花道からさっそうと登場した市川團子ふんする主人公の若者、アシタカ。その姿を目にした瞬間、客席の誰もがスーパー歌舞伎「もののけ姫」(東京・新橋演舞場で上演中、8月23日まで)の世界観へ引き込まれた。「曇りなき眼」で運命に立ち向かう團子の姿は、原作アニメ映画のイメージを完璧に体現していた。
自然と人間の対立と闘いの中で、タタリ神から腕に死の呪いを受けながらも、過酷な運命に挑み、「共に生きる」未来を切り開こうとする勇敢な若者アシタカ。その姿は、幾多の困難を乗り越えて「スーパー歌舞伎」という現代に生きる新しい歌舞伎づくりに邁進した團子の祖父、二代目市川猿翁の姿に重なった。
ふと心に、猿翁の長男で團子の父、市川中車が語った言葉が浮かんだ。「歌舞伎は天の父と地の團子がやる。僕は一門のために尽くすのみ」-。その真意が改めて胸にしみた。
上演中の「もののけ姫」をはじめ、同じスタジオジブリ作品が原作の「風の谷のナウシカ」、漫画やアニメの人気作「ワンピース」や「NARUTO-ナルト-」、9月2日から京都の南座で上演される「流白浪燦星(ルパン三世)碧翠の麗城」は「ルパン三世」をもとにした新作歌舞伎の第2弾。さらには世界的人気ゲームが原作の「ファイナルファンタジーⅩ」や「刀剣乱舞」など、斬新な新作歌舞伎が続々と誕生している。
二代目市川猿翁が切り開いた新作歌舞伎の挑戦は、團子ら次世代に確実に引き継がれている。伝統と革新が交差する歌舞伎は、今を映す鏡であると同時に、未来の芸能の可能性を照らし出している。