
弁財天の霊地として知られる江の島(神奈川県藤沢市)の江島神社で、三次元(3D)スキャン技術を駆使して国指定重要文化財「木造弁才天坐像(八臂(はっぴ)弁財天)」など弁財天像2体をデジタルデータ化する事業が始動した。文化財の3Dデータ化は、災害や盗難などによる破損・消失リスクに備え、確実に継承する手段として注目されている。相原圀彦宮司は「500年、1000年経てば、このままの姿で残るとは考えにくい」と述べ、複製作りに取り組む考えを示した。
何世代にもわたり信仰を集めてきた仏像・神像や伝統的な建造物は、地域の歴史を伝える貴重なものだ。
「360度全ての方向から記録することで、実物と寸分たがわないデータができる。形あるものは手を尽くしても失われることがあるが、データがあれば複製を作ることができる」文化財のデータ化に詳しい野口淳・公立小松大次世代考古学研究センター特任准教授は、こう指摘する。
例えば、ユネスコ世界文化遺産のノートルダム大聖堂(パリ)は7年前に火災で屋根や尖塔が焼失したが、3Dデータを基に再建された。また、平成22~23年に約60件の連続文化財窃盗事件が発生した和歌山県では、過疎化で管理が困難になった山間部の仏像を博物館で保管し、複製を地元に安置する「お身代わり仏像」事業が進められているという。
今回、3Dデータ化されるのは、八臂弁財天と市指定重要文化財「木造妙音(みょうおん)弁財天坐像」。いずれも江島神社が所有し、ふだんは社殿に安置されている。
8本の腕を持つ八臂弁財天(像高58・9センチ)は鎌倉時代に運慶派の仏師によって作られたとみられる。頭に蛇身の宇賀神を載せた姿の宇賀弁財天としては、現存最古とされる。令和元年に国の指定を受けた後、3年に修復が行われた。
琵琶をつま弾く裸像の妙音弁財天は通称「裸弁天」と呼ばれる。同神社によると、鎌倉時代後期から室町時代前期の作。
相原宮司は県内の文化財を調査した際、腕が取れていたり、顔の輪郭だけが残っていたりする像を見て、江島神社の弁財天像についても「300年、500年後はどうなっているのか」と危惧を覚えたという。
2体は5月27日、社殿から社務所へ移され、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術を使ったソフトウェアの開発会社「ホロラボ」(東京都品川区)などの協力で3D計測が行われた。今後、取得したデータを調整し、どのような素材で複製するかなどを検討する。相原宮司は「(複製を身代わりに置くことは)次の代、その次の代で考えればいい」と断った上で、「どうしても将来に残したい。それには複製を作っておかなければならない」と意気込みを語った。 (寺田理恵)
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