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東京・新橋演舞場で上演中のスーパー歌舞伎「もののけ姫」は、宮崎駿監督の同名アニメ映画をもとに、二代目市川猿翁(三代目市川猿之助)が築いたスーパー歌舞伎の手法を現代へアップグレードした新作歌舞伎だ。主人公アシタカを演じる孫の市川團子が猿翁の精神を受け継ぐ輝きを放ち、中村壱太郎、中村時蔵ら今をときめく花形たちの清新な魅力で、令和の時代に生きる舞台となっている。
物語の舞台は500年以上前の日本。村を襲ったタタリ神の目を射抜いた少年アシタカは、腕に死の呪いを受けてしまう。運命に立ち向かうため村を出たアシタカは、山犬に育てられた少女サンや、鉄を作るタタラ場を率いるエボシ御前と出会うが、サンたちは山を削るタタラ集団を憎み、両者は激しく対立。アシタカは共生の道を探ろうとする。
サン役の中村壱太郎は、「人間なんか大嫌いだ」と言い放つ山育ちの少女を、汚れのない魂と野性的な感性で演じる。エボシ御前役の中村時蔵は、弱者を助けながら鉄づくりに励む女リーダーのしたたかさと優しさをにじませる。そしてアシタカ役の市川團子は、サンに「私は人間だ。そなたも人間だ」と語り、命がけで苦難と闘う青年のひたむきさを全身で表現する。三者三様の純粋な生き方が、花形たちの清新な演技によって立ち上がる。
善と悪に二分化されない社会と、そこに生きる者たちの複雑な思いを歌舞伎の形で描いたことが、リアリズムを超えた説得力を生む。ラストでアシタカがサンにささやく「共に生きよう」という言葉は、複雑化する現代社会を生きる私たちに、未来への道筋を静かに示唆している。
アシタカ役の市川團子は、颯爽とした登場から長身の爽やかな容姿と真っすぐな演技で、運命に立ち向かう若者をみずみずしく体現する。もう一役、生死をつかさどるシシ神では荘厳な宙乗りを披露。その姿に、困難を乗り越えてスーパー歌舞伎を創造した祖父・二代目猿翁の面影が重なる。
サンを演じた中村壱太郎も、野性的で汚れなき魂を持つ少女を演じ抜き、タイトルロールにふさわしい輝きを放つ。サンと対立するエボシ御前の中村時蔵は、威厳と包容力を兼ね備えた女性リーダーの役どころを、見惚れるような美しい所作で見せている。
ほかにも、猪神一族の最長老・乙事主を市川中車、山犬の神・モロの君を市川笑三郎が圧倒的な存在感で演じる。二代目猿翁が育て上げた俳優やスタッフが師の遺産をしっかりと受け継ぎ、この大作を見事に歌舞伎へと昇華させた。
そもそも動物を擬人化して俳優が演じる手法は古典歌舞伎にある。歌舞伎舞踊「連獅子」などで使われる「手獅子」のような演技や、森の精霊・コダマを子役が務める工夫によって、原作の壮大なスケールと日本独自のアニミズム的世界観をアニメ映画とは異なる方法で表現したことも魅力だ。映画で耳なじみの深い久石譲の音楽も心に染み入るように響く。公演は8月23日まで。(亀岡典子)