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日本の安全保障を支える防衛産業の現状と課題を考えるシンポジウム「日本を強くする防衛産業」が5月30日、東京・大手町のサンケイプラザで開かれた。パネルディスカッションでは、産経新聞社が実施した防衛産業に関する意識調査の結果を基に、元防衛装備庁長官の土本英樹氏をモデレーターに、三菱電機上席執行役員の洗井昌彦氏、日本電気(NEC)上席執行役員の飯尾健太郎氏、国際文化会館地経学研究所主任研究員の小木洋人氏が、防衛装備移転の在り方や産業の未来について熱く議論した。
議論の出発点となったのは、政府が4月に決定した防衛装備移転三原則の運用指針見直しだ。これまで輸出の要件とされていた「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5類型が撤廃された。小木氏はこの決定を「非常に大きな前進だが、本来ならもっと早く見直すべきだった」と評価する。その理由を「防衛産業は初期投資が莫大な一方、需要は限定的。平時から継戦能力を維持するためには海外輸出が不可欠だ。今回の見直しは、政府にとっても企業にとっても、中長期的な経営戦略を立てる上で安定した制度をもたらす」と解説した。
洗井氏は、共同開発・生産したシステムの第三国移転ルールが明確になった点を強調。「技術が高度化・複雑化する中で、共同開発は効果的だ。ルールができたことで照会が増えており、今後の機会拡大に期待している」と話した。飯尾氏も「これまで段階的に見直しが進んできた。5類型撤廃はその延長線上にあり、ようやくここまでたどり着いた」と受け止めを示した。
土本氏が、意識調査の結果を持ち出した。「装備輸出を進めるべきだ」との回答が半数を超え、そのうち半数以上が「人に危害を加える武器も含めて輸出すべきだ」と答えたことをどう評価するか、と問いかけた。
小木氏は世代間の意識差が顕著だと指摘する。「冷戦期の日本は、米ソ二極構造に巻き込まれないよう消極的な平和主義を貫いてきた。しかし今は多極化する世界の中で、自国の安全を積極的に確保し、同志国や同盟国の能力を高める『積極的平和主義』が求められる。昭和世代には『日本が武器を輸出すれば国際秩序を乱す』という大国意識があったが、今の日本にその影響力はなく、構造の変化が世代間の意識差を生んだ」と分析。10~40代の7割以上が輸出推進を支持していることから「すでに理解は得られており、あとはどう実現するかの段階だ」と述べた。
続いて、輸出に対する懸念について議論が及んだ。調査では「特定の企業だけが利益を得ること」への懸念は3.4%と低く、一方で「他国の紛争助長」や「技術流出」が高い割合を占めた。洗井氏は「国民は私たちの活動を自分の意見と照らし合わせて見ている。責任を持って仕事をする姿勢こそ重要だ」と強調。三菱電機では案件ごとに必要性や相手国の状況、最終用途を社内で徹底審査しているとし、「装備移転の社会的意義は平和と安定への貢献。技術による抑止力の価値を発信し続けることが、国民の懸念を払拭する鍵だ」と語った。
飯尾氏は「輸出によって同盟国の抑止力向上に貢献し、日本の安全保障環境を強固にすると考える若い世代が増えている」と好意的に受け止めた。また「特定企業だけが利益を得る」との回答が低かった点については、専門技術を持つ中小企業がサプライチェーンを支えている実態が評価された結果だと分析。NECが手掛ける航空管制レーダーは軍民両用(デュアルユース)製品であり、「防衛目的だけでなく相手国の社会全体の安全に貢献している実績を積極的に発信したい」と述べた。
防衛産業全体のイメージについては、調査で「良い印象」が6割に達した一方、否定的な見方も根強い。土本氏が「防衛産業の強化が安全保障と経済、どちらに寄与するか」と問うと、回答は拮抗した。飯尾氏は「社会の意見は真摯に受け止める。NECの防衛事業は長年培ったドメインナレッジを生かし、日本の伝統的安全保障と経済安全保障に貢献している。サプライチェーンに参加する中小企業は全国各地にあり、地域経済の活性化にもつながる」と説明。洗井氏も「防衛産業は高度な品質保証や長期的供給体制を必要とし、研究開発から素材、精密加工、ソフトウェア、補修まで多様な需要を生む。地方の技術基盤を生かしやすい分野だ」と述べ、輸出先の産業基盤強化も日本の安全保障にプラスになるとの見方を示した。
民間技術の防衛分野への活用について、飯尾氏は「AI、ロボティクス、宇宙、クラウドなど民間発の技術を活用しなければ、新たな戦い方に備えられない。技術に民用・防用の区別はなく、先端技術ほど分けられない。防衛分野で生まれた技術を社会実装することで、防衛と経済の好循環を生むことが重要だ」と強調。NECでは、防衛用のソフトウェア無線技術を災害用無線や列車無線に転用している実績を紹介した。
洗井氏は宇宙技術を例に挙げ「宇宙は観測、通信、測位、気象、災害対応など多様な機能を持つ究極のデュアルユース。『ひまわり』や『だいち』は日本だけでなくアジアの災害対応に貢献しており、国境を越えた人類共通の安心・安全を支える社会インフラとして理解されるべきだ」と訴えた。
小木氏は、調査で依然2割が「防衛産業を知らない」と回答したことに警鐘を鳴らした。「認知度を高めなければ、支持も反対も生まれない。防衛と民生の技術の境界が曖昧になる中、新規参入やスタートアップが防衛調達のハードルを感じないような規制緩和も必要だ」と指摘。ウクライナで使われるロシア製ドローンの部品に日本製の民生品が多く含まれていることに触れ、「なぜ日本は民生品を自国防衛用ドローンに活用しないのか。航空法や電波法の制約があり、自衛隊管理下での実証試験が可能な規制緩和が求められる」と具体例を挙げた。さらに、AI開発の人件費評価についても「優れたエンジニアとそうでない者の差を価格に反映できない現状の調達制度では、高度な人材や企業が参入しにくい」と制度設計の重要性を指摘した。
土本氏は最後に、新たな国家安全保障戦略で防衛産業が「社会そのものを支える不可欠な存在」と位置付けられたことに触れ「まだ重要性を理解していない人がいる。国民に分かりやすい言葉で伝えることが、これからの課題だ」と締めくくった。
■シンポジウムの主催・後援など
主催:産経新聞社。後援:防衛省、防衛装備庁、経済産業省、日本防衛装備工業会、日本航空宇宙工業会、全国防衛協会連合会、宇宙航空研究開発機構(JAXA)。特別協賛:IHI、NTTドコモビジネス、日本電気、三菱電機。協賛:大阪ヒカリ、川崎重工業。
■意識調査の方法
5月17日実施。全国18歳以上を対象に、RDD方式(無作為電話番号発生)で固定電話と携帯電話に通話。回答者数1100人。産経新聞の調査であることを伝え、性別は質問していない。