
北朝鮮は今年、朝鮮労働党大会と最高人民会議を開催し、金正恩総書記が新しい警察制度の創設を含む施政方針を明らかにしました。この動きに対し、北朝鮮研究の第一人者である韓国の康仁徳元統一相は、体制維持のための締め付けが一段と強まると見ています。康氏は「住民相互の監視体制の強化など、恐怖政治がさらに深刻化するだろう」と語り、今後の動向に強い懸念を示しました。平壌の指導部が抱く危機感の表れとも言えるこの方針は、国際社会からも注目を集めています。
会議の中で、金正恩氏は「わが国に合致する警察制度を設ける」と語り、独自の治安維持体制を構築する意欲を見せました。康氏はこの発言の意図について、住民監視をこれまで以上に徹底させる考えがあるのではないかと分析しています。北朝鮮にとって、外部からのドラマや映画などの情報流入は、体制の根幹を揺るがしかねない重大な脅威となっています。新たな警察制度は、こうした不純な情報の遮断を主目的としている可能性が高いでしょう。
具体的な監視手法として康氏が指摘するのが、1958年に創設された「五戸担当制」の復活という可能性です。これは20世帯から40世帯で構成される人民班よりもさらに小さな単位で、住民を相互に監視させる極めて緻密な仕組みを指します。かつて存在したこの制度は、1990年代に大量の餓死者を出した「苦難の行軍」の混乱期に自然消滅していました。もしこの制度が現代に蘇れば、北朝鮮社会の閉塞感は極限に達することになるでしょう。
北朝鮮は2月に開かれた第9回朝鮮労働党大会において、自らの党の業績を自画自賛し、体制の盤石さをアピールしました。しかし、各国の調査機関や脱北者たちの証言を丹念に積み重ねていくと、プロパガンダとは異なる現実が見えてきます。長年にわたり北朝鮮が自称してきた「地上の楽園」というスローガンの裏側には、深刻な困窮と抑圧が隠されています。表向きの華々しい発表とは裏腹に、内部では国民の不満や体制の綻びが広がっているのが実情です。
金正恩体制が底辺から崩れ始めているとの指摘もあり、今回の警察制度創設はまさにその崩壊を食い止めるための足掻きとも言えます。核開発の強化や対米関係の停滞が続く中で、指導部は内部の統制を何よりも優先せざるを得ない状況に追い込まれています。石油資源の枯渇や経済難に苦しむ国民に対し、愛国心を強調することで結束を図ろうとする姿勢も鮮明になっています。混迷を極める北朝鮮の最新情勢を、今後も多角的な視点から注視し続ける必要があります。