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「キイテ・キサイネ・キラ・キシ」「マイネ・マイネフ・マイ・マシフ」。何かの呪文やまじないの言葉のように聞こえるかもしれない。だが、これは鉄道車両に付けられる「車両記号」だ。カタカナと数字の組み合わせで、その車両の性能や等級、用途が一目で分かるようにした、いわば鉄道の「設計図」なのである。
大阪環状線を走る電車に乗れば「モハ323」、特急「はるか」なら「クロ280」といった標記を、車両の側面や車内の壁面で見掛けるはずだ。「ク」は運転台付き、「モ」はモーター付き、「ハ」は普通車(寝台車ならB寝台)、「ロ」はグリーン車(寝台車ならA寝台)を意味する。つまり「モハ323」は323系通勤型電車のモーター付き普通車、「クロ280」は281系特急型電車の運転台付きグリーン車ということになる。
ディーゼルカーや客車にも、それぞれの記号は存在する。国鉄時代から続く仕組みで、JR移行後も一部を除いて受け継がれてきた。冒頭の「キイテ」もその一つで、JR西日本が運行する豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」の車両記号だ。10両編成の両端にある展望車両は「キイテ87」、食堂車は「キシ86」、ラウンジカーは「キラ86」、残りの寝台車が「キサイネ86」。形式は87系で、「キ」は気動車であることを示す。「ネ」は寝台車、「テ」は展望車、「シ」は食堂車、「ラ」はラウンジを表している。「サ」はモーターやエンジンが付いていないことの意味だ。
なかでも注目は「イ」だろう。国鉄は昭和30年代まで「イロハ」の順に等級を付け、「イ」は1等車、「ロ」は2等車、「ハ」は3等車だった。その後、「イ」は利用不振などで消え、「ロ」のグリーン車と「ハ」の普通車の2等級制になった。ところが、その「イ」が半世紀以上ぶりに復活した。先陣を切ったのは平成25年運行開始の「JR九州のななつ星in九州」で、車両記号は「マイネ-」。こちらは77系客車だ。「マ」は客車の重さを示し、重い方から「カマスオナ…」の順に付けられる。「マ」は42・5トン以上47・5トン未満で、2番目に重いクラス。「フ」は車掌室付きを意味する。展望室やラウンジを備える「マイ77」だが、瑞風のように「テ」「ラ」は名乗っていない。
瑞風の「イ」は、A寝台やグリーン車よりも設備のグレードが高いことをアピールしている。一方、JR東日本の豪華列車「TRAIN SUITE四季島」も「イ」を名乗ってもいい設備を持ちながら、カタカナの車両記号は使われていない。新幹線と同じ扱いで、従来の価値観とは違う車両であることを示しているのかもしれない。
車両記号を組み合わせて眺めるのも面白い。瑞風の前身、24系客車で運行された「トワイライトエクスプレスの食堂車は「スシ24」だったが、料理でお寿司が提供されたかどうかは別の話。9号車の次に連結されていたのは「カニ24」で、もちろん海のカニとは無関係。「ニ」は荷物車の意味で、客車に電源を供給する役目を担っていた。ほかにも「クモロハ286」「サロハネ285」、郵便車の設備を持つ「スユニ50」といった記号が存在する。自分の乗った車両の記号を確認してみれば、車内での時間が少しだけ違って見えるはずだ。