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かつてiPhoneの箱を開ける瞬間の「ベリベリ」という感触は、多くのユーザーにとって開封体験の代名詞だった。しかし、現在の製品包装からはその音が消えている。アップルは10年にわたる地道な取り組みで、プラスチックをほぼ排除しながらも、唯一無二の開封体験を維持することに成功したのだ。
この変化の背景には、環境負荷低減への強い意志がある。アップルは2015年頃から包装材のプラスチック使用量を段階的に削減し、2020年代にはほぼ全ての製品でプラスチックフリーの包装を実現した。素材は再生紙やバイオマス由来の樹脂に切り替えられ、リサイクルしやすい設計が徹底されている。
しかし、単にプラスチックを排除するだけでは、あの独特の開封感覚は失われる。アップルは、開封時の摩擦音や手触りまで緻密に設計する「アンボクシング体験」を重視してきた。新素材でも同様の感触を再現するため、紙の繊維方向やコーティング技術に膨大な試行錯誤が重ねられた。
この挑戦を支えたのは、日本の素材メーカーや包装加工企業との緊密な協業である。例えば、ある岐阜県の紙器メーカーは、アップルの要求水準を満たす特殊な紙製トレイを量産化するために、工場全体の設備を刷新したという。日本企業の持つ高い技術力と柔軟な対応力が、アップルの構想を現実のものにしたのだ。
アップルの執念は、単なる環境配慮やコスト削減を超えている。開封体験こそが製品との最初の接点であり、ブランドの価値を伝える重要な瞬間だと考えているからだ。この10年の歩みは、デザインとサステナビリティを両立させる企業姿勢の象徴であり、今後も包装の革新は続いていく。