
紙の出版物市場がこの30年で約3分の1に縮む不況のさなか、大手チェーンでもない三省堂書店が、神保町本店の建て替えに踏み切った。先日行われたリニューアルオープン初日には、開店前から約800人もの行列ができ、その注目度の高さを物語った。改装の舞台裏には、生き残りをかけた書店の“未来像”が込められているという。
長きにわたり東京・神保町のランドマークとして親しまれてきた三省堂書店本店。古書店が軒を連ねるこの街で、新刊書店としての存在感を維持するのは容易ではない。今回のリニューアルでは、単なる内装の刷新にとどまらず、書籍の買い方や滞在の仕方そのものを変える試みが随所に取り入れられた。書店員たちは「お客様に本とどう出会ってもらうか」を徹底的に議論したという。
改装の最大の特徴は、本を「選ぶ」行為を体験として再設計した点だ。たとえば、売れ筋の平台を減らし、代わりにテーマごとにキュレーションされた棚を多数設置。さらに、立ち読みしやすい椅子や、静かに読書できる個室スペースも備えた。電子書籍やネット通販が台頭する中、「リアルな場でしかできない体験」にこだわったと店側は説明する。
また、神保町という土地柄を生かし、古書や学術書との連携も強化。三省堂書店の新しいフロア構成では、出版社や大学と協力したイベントスペースを常設し、対談やセミナーを定期的に開催する計画だ。これにより、単なる販売店ではなく、知識と出会う“街のサロン”としての役割を狙う。
もちろん、改装には莫大な投資が必要であり、経営的なリスクは否定できない。しかし、出版業界の関係者の間では、「書店が生き残るためには、このような挑戦が不可欠だ」との声が少なくない。三省堂書店の試みは、他の中小書店や地域書店にとって一つのモデルケースになるかもしれない。
開業日、行列に並んだ客の一人は「新しい三省堂がどんな本に出会わせてくれるのか、楽しみで仕方ない」と語った。デジタル化が進む時代にあっても、本を手に取り、ページをめくる喜びが失われていないことを示す光景だったと言える。今後、この神保町の老舗が、書店業界全体にどんな風を吹き込むのか、注目が集まる。