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アストンマーティンがFRスポーツ「ヴァンテージ」をベースに、より高性能な「ヴァンテージS」を発表。強力なエンジンと洗練されたシャシーにより、卓越したコーナリング性能を維持しながら、新たに“優しさ”とも言える乗り心地の良さを獲得した最新モデルの実力をリポートする。
「ヴァンテージはファイターですからね」。そう笑顔で語ったのは、現行ヴァンテージのビークルダイナミクスを手掛けたマット・ベッカー氏。2017年秋、国内初披露の場でのインタビューだった。
アストンマーティン ヴァンテージS(FR/8AT)の詳細画像はこちら。
ベッカー氏はロータス出身のシャシー専門家。2015年にアストンマーティンに移籍し、DB11の味付けなどを経て、新型ヴァンテージを一から開発した。
当時は未試乗だったが、ベッカー氏が手掛けたロータス車や、3代目ヴァンテージベースのGT12、GT8に魅了されていた筆者は、新型への期待が膨らんだ。
しかし、最新のヴァンテージSに乗り込んで走り出すと、最初に「あれ?」という印象が湧いた。その疑問符は一般道から高速道路まで頭から離れなかった。
Sモデルは通常、既存モデルより高いパフォーマンスを与えられる。このヴァンテージSも、メルセデスAMG由来の4.0L V8ツインターボが680PS(+12PS)、トルクは800Nmを2000-5000rpmで発生。トルクバンドが拡大した。
最高速は325km/hのまま。0-100km/h加速は0.1秒短縮の3.4秒となり、中間加速の向上が期待される。コーナー脱出やその後の伸びが改善されたはずだ。
外観も変更点が多い。フードやバンパーに放熱・整流用のブレードを追加。フロントエアダムは前方に突き出し、リアにカーボンスポイラーを装備。アンダーフロアの改良もあり、最高速時のダウンフォースはフロント67kg、リア44kg増加した。
筆者は2024年大幅改良前のヴァンテージしか経験していないが、それはまさに“ファイター”だった。パワーは劣るものの、歴代アストンで最もシャープなドライブフィールを持ち、乗り心地は硬めだった。新しいSも同様のキャラクターだと思っていた。
ところが、オプションのカーボンバケットシートに座って走り出すと、その予想は裏切られた。硬質な乗り心地を予想したが、DBシリーズを思わせるしなやかで快適な乗り味だった。不快感がなく、滑らかで角のない動きに驚いた。
リアサブフレームのリジッドマウント化、トランスミッションマウント剛性の引き下げ、リアスプリングエイドの調整など、シャシー全体のバランスを見直した結果、この乗り心地が実現した。フルモデルチェンジ並みの改良だ。
このマイルドな乗り心地に、筆者は「ファイターとしての尖りが薄れたのでは」と疑念を抱いたが、走行モードを切り替えてアクセルを踏み込むと、そんな心配は無用だった。獰猛な加速が戻ってきた。
680PS、800NmのV8ツインターボは低速域から猛烈なダッシュを見せ、回転が上がるほどレスポンスがシャープになる。AMG GTより角がまろやかなサウンドもアストンらしい。加速は滑らかで、スピードがめきめきと積み上がる。
高回転型のように感じるが、実際はフラットなトルク曲線で、2000-5000rpmで最大トルクを発生。パワーも6000rpmまで直線的に伸びる。どの回転域からでも速さを引き出せる。
つまり、どこからアクセルを踏んでも速い。ピーキーでないエンジンは戦闘に有利だ。0-100km/h3.4秒は835PSのヴァンキッシュと僅差。フル加速では頭がクラッとするほどのパンチ力だ。
ワインディングでは本領を発揮。よく曲がる。スポーツモード(ノーマル)でもキレの良い回頭性を見せ、スムーズに曲がる。
スポーツプラスにすると、フロントノーズがさらにインを向き、ブレーキを残しながら進入すればフロントが内側を向き、リアが追従。立ち上がりでアクセルを踏むとニュートラルな姿勢を保ち、電子制御が巧みに介入する。
トラックモードでは、ホイールベースが短くなったかのような回頭性を示し、コーナリングが鮮やかでエキサイティングだ。
ここで気づいた。数年前に試乗したヴァンテージでも似たような言葉を書いた気がする。つまり、初期型も新型Sもスポーツカーとしてのテイストは同一線上にあり、特に旋回性能に対する思想はブレていない。
進化した点として、フロントのレスポンスとグリップ、リアの踏ん張りが向上し、情報伝達が豊かになった。トラックモードはハードコアだが、スポーツモードでは快適な乗り心地を両立。アストンらしい強さと穏やかさを兼ね備えた。
ベッカー氏は既にアストンを去ったが、その思想は受け継がれ、正しく進化している。スポーツドライビングを愛する者にとって、これほど素晴らしいFRスポーツカーは他にない。2760万円という価格も、コストパフォーマンスに優れる。
(文=嶋田智之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=アストンマーティン ジャパン)