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勤め先の上場企業が他社の株式の買い集めや公開買い付けを計画しているとの未公開情報を得た女性が、正式公表に先駆けて夫の名義で計1億5000万円分の株式を購入していた――。このインサイダー取引は、証券取引等監視委員会の市場監視システムによってほどなく検知され、女性が取引の主体であることも特定されることになった。
他人名義の口座を利用した売買は、一見すると発覚を逃れられそうに思える。しかし市場監視システムは、銘柄ごとの株価変動と売買注文の状況を常時モニタリングしており、重要事実の公表前に特定の口座で集中的な買いが観測されれば、取引パターンの異常からインサイダー取引の疑いを自動的に抽出する仕組みになっている。
監視委員会は異常な取引を検知すると、口座名義人と上場企業との関係を徹底的に調査する。この事案でも、夫名義の口座に出入りした資金の出所をたどる過程で、妻が勤務先においてM&A関連の未公開情報にアクセスできる立場にあったことが裏付けられた。さらに夫婦間の資金移動や通信記録などの状況証拠も、インサイダー取引の認定を強固なものにした。
その結末は過酷だった。女性は金融商品取引法違反(インサイダー取引)の容疑で刑事告発され、課徴金の納付を命じられた。勤務先の上場企業からは懲戒解雇処分を受け、長年かけて築いてきたキャリアは一瞬で崩壊した。売却によって得た利益も、罰金や課徴金、さらには弁護士費用によって大きく目減りし、社会的信用を失った代償は金銭では計り知れないものとなった。
証券市場の公正性を守るための監視網は年々強化されており、取引の名義人が誰であるかに関係なく、最終的な利益の帰属先まで特定する調査手法が確立されている。未公開情報に接する立場にある者が「ばれない」と考えること自体が、最も危険な錯覚であることを、この事例は改めて示している。