
秩父宮殿下の渡英が迫り、在ロンドンの日本大使館は連日慌ただしい様子を見せている。準備に追われる職員たちを眺めながら、和子はふと過去の記憶をよみがえらせた。
二・二六事件の際、一部でささやかれた「黒幕」の存在。和子はその噂を思い出し、今なお解けぬ謎に思いを巡らせる。誰が本当の首謀者だったのか、という疑問が頭を離れない。
「英国人は世界でいちばん良識のある国民だと祖父も父も言うけれど、和子は不思議に思うことがある。」と彼女は心の中でつぶやく。果たして英国の外交姿勢は本当に良識に基づいているのか、疑念を抱く。
大使館内では、殿下の滞在中の日程調整や警護計画が練られている。和子はそれらを見ながら、日本と英国の関係の複雑さを痛感する。
こうした国際舞台の裏で、和子は自国の歴史における暗部と向き合う。過去の事件の真実、そして今後の日本の針路について、静かに考えを深めるのだった。