
サントリーがジン市場で新たな一手を打った。3月26日に開催した戦略説明会で、2026年度の方針を明らかにするとともに、2022年発売の「翠ジンソーダ缶」を全面リニューアル。新たに「<すっきり爽やか>」と「<本格濃いめ>」の2商品を投入し、さらに同社最古の大阪工場を改装して一般公開を始めた。ジン市場が急拡大する一方で、家庭用の売り上げが伸び悩むという課題を抱えるなか、価格・商品設計・体験価値の三方向から攻めに出た格好だ。
世界のジン市場は2015年からの10年で約2倍に膨らみ、2兆円規模に達した。国内でも2020年から2025年にかけて市場規模が約3.5倍に拡大。とりわけ2022年には100億円台から一気に200億円台へ跳ね上がった。このタイミングで投入された翠ジンソーダ缶は、初週売り上げで2016年以降発売のサントリー商品の最高記録を更新し、年間販売計画を早期に上方修正するほどのヒット商品となった。しかし、勢いづく市場のなかで、新たな課題も表面化している。
サントリーの調査によると、20代のジン飲用率は17.6%と60代の約4倍。若年層に支えられてきた翠ブランドだが、2025年度の家庭用売り上げは前年比9%減と落ち込んだ。業務用が26%増だったのとは対照的だ。マーケティング本部副本部長の梅原武士氏は「RTD飲料の選択肢が格段に増え、翠が埋没してしまった」と分析する。特にアサヒビールの「GINON」が168円という低価格で存在感を増すなか、翠の212円という価格は「家庭用には手が届きにくい」という声も少なくなかった。
こうした現状を踏まえ、サントリーは3つの戦略を打ち出した。第一は価格の見直しで、350ミリリットル缶の希望小売価格を212円から196円に引き下げた。2026年10月の酒税法改正でビールとの価格差が縮まることも追い風となる。第二に、ラインアップを「すっきり爽やか」と「本格濃いめ」の2種類に分化。食事のお供として飲みたい層と、ジン本来の味わいをしっかり楽しみたい層の双方に対応する。第三に、大阪工場に55億円を投じた新蒸溜設備を公開し、工場見学ツアーを開始。2026年5月から一般公開し、12月までに5000人の来場を目指す。
サントリーのジン事業は、1936年に創業者・鳥井信治郎が「日本人の味覚に合う洋酒を」と開発した「ヘルメスドライジン」に始まる。その後「サントリードライジン」などを経て、2017年に発売した「ROKU〈六〉」が大ヒット。2024~25年の金額ベースで前年比144%と、他銘柄の115%を大きく上回った。このROKUは2024年末時点でプレミアムジンの販売数量世界2位となり、2025年には国際コンペISCでジン部門最高賞を受賞。インバウンド需要も期待できる。
「翠ジンソーダ缶」は、リニューアルにあたって飲食店での実地調査を実施し、特に人気店ではレモンを絞って提供している実態を反映させ、香りを強化した。キーメッセージも「晩メシソーダ、翠ジンソーダ」に刷新。梅原氏は「ハイボール、レモンサワーに次ぐ第3のソーダ割として定着させたい」と語る。価格、商品、体験の三位一体で若者の胃袋と心をつかめるか。業界の注目が集まる。