
「長寿の鍵は、体内のポリアミン濃度にある」――こんな仮説が、近年の老化研究で注目を集めている。細胞の新陳代謝や遺伝子の働きを支えるこの物質は、加齢とともに減少することが分かっているが、驚くべきことに、健康な長寿者ではその値が高いまま保たれているケースが多いという。では、私たちは食事や生活習慣でポリアミンを補えるのだろうか。最新の知見をもとに、その可能性を探る。
ポリアミンとは、細胞分裂やタンパク質合成に不可欠なアミン化合物の総称だ。代表的なものにスペルミンやスペルミジンがあり、体内のあらゆる細胞に存在する。しかし、加齢に伴いその合成能力は衰え、特に60歳を境に急激な減少が見られるというデータがある。この減少が、細胞の老化や免疫機能の低下に直結すると考えられている。
面白いのは、世界の長寿地域で行われた調査だ。例えば、イタリア・サルデーニャ島や日本の沖縄の百寿者を調べた研究では、血液中のポリアミン濃度が同年代の平均より有意に高いことが報告されている。遺伝的な要因もあるが、彼らに共通するのは食事内容。発酵食品や野菜を多く摂る伝統的な食生活が、ポリアミン摂取量を自然と高めている可能性が指摘されている。
そこで注目されているのが「腸活」である。腸内細菌は、食物繊維や発酵食品に含まれる成分からポリアミンを合成する働きを持つ。医師が勧めるのは、納豆や味噌、キムチなどの発酵食品、そして大豆やキノコ類、緑茶を積極的に取り入れることだ。特に大豆製品に含まれるスペルミジンは、腸内細菌のエサとなり、体内のポリアミン産生を促すという。
もちろん、ポリアミンを直接含むサプリメントも市販されているが、医師の見方は慎重だ。「過剰摂取は逆効果になる可能性もある。何より、バランスの良い食事と腸内環境を整えることが、長期的なアンチエイジングにつながる」と語る。つまり、60歳を過ぎたら「何を減らすか」よりも「何を腸に届けるか」を意識する方が、細胞の老化を穏やかにするヒントになるのかもしれない。