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文部省唱歌『春の小川』(1912年刊「尋常小学唱歌 第四学年用」に掲載)は、高野辰之(たかのたつゆき)作詞、岡野貞一(おかのていいち)作曲の名曲である。今も多くの人に愛されるこの歌を、高野がどこの光景を思い浮かべて詞を書いたのか、長く謎とされてきた。
文部省唱歌の作者が伏せられていた時期もあり、本欄では以前「はっきりしていない」と記した。しかし近年の研究で、高野が東京・代々木の風景をモデルにした可能性が浮上している。
高野は明治期、中山晋平や田山花袋らとともに代々木に集う「文人墨客」の一人だった。彼らは同地の自然や風情を愛し、創作の糧としていたという記録が残る。
「春の小川」の歌詞に登場する「さらさら流れる」小川や「岸のすみれ」は、当時の代々木に実在した小川や草花を描写したものだと、郷土史家は指摘する。高野自身も代々木の情景を日記に書き留めている。
連載「シン歴史に消えたうた」では、こうした埋もれた事実を掘り起こしながら、唱歌や戦時歌謡の知られざる背景を追う。第35回は、代々木の文人ネットワークが生んだ名曲の新たな顔を照らし出す。