
山口県下関市の玄関口に位置する商業施設「シーモール下関」のホールが、厳かな空気に包まれている。三月下旬、そこには仏像が描かれた掛け軸が並び、僧侶の読経が静かに響き渡っていた。この日開催されていたのは「四国八十八ケ所めぐり お砂踏み」という特別な催しだ。まるで由緒正しい寺院に足を踏み入れたかのような錯覚を覚えるほど、会場は荘厳な雰囲気に満ちている。
会場では、実際に札所を巡礼したのと同じ御利益が得られるとされる儀式が行われた。僧侶による「開眼法要の式」が厳かに執り行われ、その終了とともに次々と来場者が姿を見せる。訪れた人々は、なにか深い悩みを抱えているのか、静かに手を合わせながら頭(こうべ)を垂れていた。祈りを捧げるその姿は、商業施設の一角であることを忘れさせるほど真剣なものだった。
静寂の空間を後にして一階のフードコートへ向かうと、館内には軽快なメロディが流れ始める。スピーカーから聞こえてくるのは「シーモール・シーモール・下関」という耳馴染みのあるイメージソングだ。明るく前向きなその歌声は、買い物客たちの足取りを軽くしていく。かつての賑わいを象徴するかのような音色が、今もなお施設全体を優しく包み込んでいる。
フロアを見渡せば、うどんチェーン店の前には長い行列ができ、賑わいを見せている。ドーナツショップの前では、小さな男の子が母親と楽しそうに商品を選んでいる姿が微笑ましい。こうした何気ない日常のワンシーンこそが、地域の人々にとっての財産なのだろう。いつかこれらの光景も、家族の大切な記憶として積み重なっていくに違いない。
「海の小径(こみち)」を意味する名を持つシーモール下関は、一九七七年十月にその産声を上げた。開業当時は専門店二百二十店に加え、下関大丸やダイエーが入る西日本屈指の規模を誇った。当時は「下関市商業界の浮沈をかけた大型ショッピングセンター」とうたわれ、地域の期待を一心に背負っていた。誕生から半世紀近くが経過した今も、その存在感は失われていない。
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