
1週間に40~50ショットを撮影して、やっと2分半程度だという。手作りの質感が魅力のストップモーション・アニメーションは、気の遠くなるような地道な作業の積み重ねで完成するが、7月4日全国公開のイギリス作品「映画ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」は、85分間せりふもないのに全編わくわくドキドキ感が詰まった驚異の映像に仕上がっている。来日したリチャード・スターザック監督(56)は「構成をきっちり組み立てれば、せりふがなくても子供たちを飽きさせることはないと確信を持っていた」と自信のほどを見せる。
とにかくスピード感といい、キャラクターの表情といい、ストップモーション・アニメ、いわゆるコマ撮りアニメでここまでできるのかというくらい緻密で豊かな世界が広がっていた。仲間たちと一緒に牧場で暮らすショーンは、休暇を取るために牧場主を眠らせることに成功する。ところが牧場主を乗せたトレーラーが暴走し、大都会に迷い込んでしまう。ボスを探しにショーンたちも大都会を目指すが…。
「ショーンたちが最も落ち着く場所が牧場で、そこから全く正反対の大都会に行くというアイデアがひらめいた。以前のテレビシリーズでも街が出てきたことはあったが、今回は大都会ということで、それらしく見せるように工夫するのが大変でした」とスターザック監督は振り返る。
日本でもテレビシリーズがNHKのEテレで放送されている「ひつじのショーン」は、アカデミー賞にも輝いた「ウォレスとグルミット」シリーズで知られる英アードマン・アニメーションズが製作するストップモーション・アニメだ。白い毛に黒いクールな顔が特徴のショーンは、1995年の短編映画「ウォレスとグルミット 危機一髪!」(ニック・パーク監督)で初登場。その後、スターザック監督が中心となってショーンを主人公にした作品が模索され、2007年に7分間のテレビシリーズの放送が始まった。
その人気を受けて今回、初の長編映画が企画され、マーク・バートン監督と共同でスターザック監督が担当。「長くショーンと付き合ってきたので、長編が実現できて感慨深いものがある。ショーンもスポットを浴びるのが好きだから喜んでいるでしょう」とうれしそうに語る。
スターザック監督によると、テレビシリーズのころからショーン像はサイレント時代の喜劇王、バスター・キートンを参考にしている。ショーンは表情にあまり変化がないキャラクターで、無表情で超人的な演技を披露するキートンに通じるところがある。「それにキートンは、家が壊れようが爆弾が落ちてこようが、サッとほこりを払って何事もなかったかのように歩いていく。スタジオのドアにはキートンの写真を貼っておいて、彼がショーンの基本なんだよとスタッフみんなに伝えていました」
今回の映画は約100人のスタッフがかかわっているが、中でもキャラクターの動きを担うアニメーターは実写映画の俳優に相当する重要な役柄だ。監督は、このキャラクターはなぜこのような行動を取るのか、動機から思考から事細かくアニメーターに伝え、リハーサルを重ねて演技をつけていく。