
完全に密閉された装置内で光や空気、水などの環境条件を制御し、野菜や果物を栽培する——。スタートアップ(新興企業)のプランテックス(東京都江東区)が開発した画期的な食料生産システムが注目を集めている。気候変動の影響を受けずに品質や収量を安定させるだけでなく、味や栄養面での付加価値も付与できるのが特徴で、食料安全保障の課題解決を目指す壮大なビジョンを描く。日本発の最先端テクノロジーとして、世界市場への挑戦が始まった。
JR川崎駅から徒歩圏内のオフィスビルに入居するプランテックスの先端植物研究所。ドアを開けると、真っ白な箱がいくつも並んでいる。
この箱は同社が開発した世界初の完全密閉型栽培装置で、光量や明暗の時間、温度や二酸化炭素(CO2)濃度、気流速度、養液のイオン濃度や流量速度といった28の環境条件をきめ細かく制御し、植物の成長をコントロールしている。
レタスの場合、昨年までの10年間で6倍以上の生産性向上を実現したほか、100グラム分を栽培するのに、一般的な農業の方法に比べ12リットルの節水ができるなど環境にも優しい。
装置を複数導入することで、いわゆる植物工場を作ることができる。同社では顧客企業の要望に応じて植物工場の企画や設立、運営のサポートも手掛ける。
装置を売るだけでなく、ニーズに合わせた「栽培レシピ」を配信するビジネスモデルでも注目されている。研究所では40台の装置を使って、栽培レシピを開発。例えば野菜のおいしい地域の味わいを再現したり、特定の栄養素を多く含ませることもできる。農薬不使用で衛生管理の行き届いた環境で作るため、洗わずに食べられたり日持ちがする点も好評で、顧客企業が装置を活用し、有名レストランやスーパーなどに新鮮な野菜を出荷している。
今後は栽培品目を増やすことが課題の一つだ。現状では採算が取れるのは、レタスやルッコラ、バジルなど可食部の多い葉物野菜に限られる。だが、研究所では、イチゴやミニトマト、キュウリ、小麦などの栽培にも取り組んでいる。
野菜・果物以外では、薬用植物の国産化や高品質な薬用成分の安定確保に向けた研究も進む。例えばロート製薬や国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究では、「朝鮮ニンジン」として知られるオタネニンジンの水耕栽培の実用化を目指している。
プランテックスの栽培装置のように、先端技術を活用した食料生産は「フードテック」と呼ばれ、多くのスタートアップが開発を競っている。
プランテックスの山田耕資社長は「フードテックは世界的な産業になる可能性がある。日本発の技術で世界をリードできれば、日本経済の成長にも貢献できる」と展望を語る。このビジョンは国の成長戦略とも合致しており、植物工場ビジネスで2040年に国内外でシェア3割を達成することが、国を挙げたマイルストーンとなっている。
昨年12月には、クボタが米ニューヨークに設けたマーケティング拠点にプランテックスの密閉型栽培装置を導入。北米市場の植物工場に対するニーズの把握や事業モデルの検証などに乗り出した。
ニューヨークを足掛かりに、いずれは欧州や中東、アジアなどへの展開を見据える。山田氏は「ゆくゆくは食糧事情の厳しいアフリカや島嶼国でも展開できたら」と思いをはせる。
ただ、植物工場ビジネスはまだ完成形には程遠い。山田氏は「まだどの植物が本当に向いているのか、分かっていない。実現できているのは氷山の一角だろう」と述べ、研究開発を加速する考えを示す。
フードテックは高市早苗政権の下で、戦略17分野の一つに位置付けられた。「これはビジネスチャンスでもあり、食料安全保障を達成する手段でもある」(山田氏)。プランテックスの勝負はこれから本格化する。(米沢文)