
「都会のオアシス」をうたう大阪市東住吉区の大阪市立長居植物園の入園者数が今年3月末で年間86万人を超え、過去最高を更新した。目標の90万人まであと一歩に迫る。最大の課題は知名度の低さ。国内最大級のスケールを誇り、交通至便な立地条件にありながら「隣接するサッカースタジアムとは比べものにならない」と大阪市から管理運営を任された団体は嘆く。職員たちは一丸となって長居植物園ならではの「オンリーワン」を作り、伝えるブランド戦略に力を注ぐ。
植物園の正門をくぐり、背の高いラクウショウ(ヒノキ科の落葉針葉樹)の並木道を抜けると、大池(4・7ヘクタール)を望む絶景が広がる。園内で最初の撮影スポットだ。
池を囲むようにしてツバキ、バラ、ボタン、アジサイなどの庭園や、古代から現代まで大阪の樹林を再現した「歴史の森」があり、遊歩道のベンチや芝生広場で家族連れやカップルがお弁当を広げて憩う。
植物園へは大阪・梅田から大阪メトロ御堂筋線で乗り換えなし、約30分で行ける。「都会のオアシス」を自称するのもうなずける。
総面積約24・2ヘクタールで甲子園球場の6個分に相当。植物の種類は約1200種、植物約6万1000本と全国屈指のスケールを誇る。
ところが長居公園内にあって、面積にして全体の3割を占めるにもかかわらず存在感が薄い。
大阪国際女子マラソンが開催される「ヤンマースタジアム長居」、サッカーJリーグ、セレッソ大阪がホームゲームで使う「ヤンマーハナサカスタジアム」(旧ヨドコウ桜スタジアム)に比べて知名度はきわめて低いとみられている。
植物園の管理運営を任されている一般財団法人大阪スポーツみどり財団の主任、瀬川早保(さほ)さんも「公園は知っていても植物園は知らない。知っていても入ったことがないという声をよく聞く」と明かす。
植物園は令和3(2021)年11月から5カ月間休園、園内を改修し、翌年4月に再オープンした。このとき12年度までに年間入園者数90万人を達成するという目標が設定された。
再オープンした4年度、早くも過去最高の78万1690人を記録、5年度も83万8888人と連続で記録を更新した。
植物学者の牧野富太郎をモデルにしたNHKの連続テレビ小説『らんまん』の放映にちなんだイベントを開催したことが功を奏したと考えられている。
しかし6年度はその反動からか、73万1561人に減ってしまった。
そこで7年度は冬の閑散期にテコ入れをはかった。1月4日から2月15日にアイスチューリップフェアを開催し、1万3000株の花壇で春を先取りし、来場を誘った。
アイスチューリップとは、チューリップの球根を特殊な方法で冷蔵処理して冬を疑似体験させた後、自然環境に戻すことで、春ではなく冬に咲かせることができるというものである。
その結果、1月は前年より1万1000人多い3万8000人、2月も2万2000人多い5万3000人が来場し、大成功をおさめた。7年度の入園者数が86万2341人に達し、2年ぶりに過去最高を更新できた。
瀬川さんによると、長居植物園の場合、年度始まりの4月、5月がベストシーズンで例年25万人程度の来場が期待できる。GWがかき入れ時で1日最大1・6万人が見込まれる。
梅雨や夏の酷暑で客足は伸び悩むが、8月はヒマワリで来場者を引き寄せる。9月下旬から11月上旬は、イネ科のミューレンベルギア・カピラリスがピンク色の穂をつけ、遠目に見ると霧がかかったような幻想的な世界が広がる。
「カピラリスの群生は大阪で見られる場所がまだ少ないこともあり、人気が急上昇しています」
最大の悩みは来場が天候に大きく左右されること。酷暑、厳寒、降雨、降雪、台風、豪雨…。「日々、天気予報とにらめっこです」と瀬川さんは話す。
土日祝が雨にたたられると4000~5000人に減る。最悪1000人を割ることもある。
長居植物園の短所は温室がないこと。大阪で言えば「国内最大級の大温室」をうたう大阪・鶴見緑地内の「咲くやこの花館」(延べ約6900平方メートル)、「全天候型国内最大規模」とうたう観覧温室(延べ約4700平方メートル)を有する京都府立植物園(京都市左京区)がうらやましいかぎりだという。
「目標達成に今、長居に不足しているのはブランド力」と瀬川さんは指摘する。「長居植物園といえば〇〇というのがまだない。『オンリーワン』をいかにつくり、いかに伝えるか模索中です」
思いつくのは自力でできない部分を外部の力を借りてやる発想だ。イベントで企業・団体の協賛を得ようとする場合もブランドがものをいう。「営業をかけてもブランド力の弱さからタイアップできず、悔しい思いをしたこともあります」
中長期で植物園の戦略を考えるとき「子供をターゲットにしたい」と考える。
「子供たちの記憶にしっかりと残り、大きくなったら彼女彼氏とデートで、結婚したら子供を連れてファミリーで、やがては孫を連れて訪れる。そんな何世代にもわたって愛される植物園にしたいですね」と瀬川さんは語る。
入園料は大人300円、高校生・大学生200円(要学生証)。中学生以下、障害者手帳等を持つ人(介護者1名含む)、大阪市在住の65歳以上は無料(健康保険証など要証明)。年間パスポートは大人1500円、高校生・大学生1000円(要学生証)となっている。
休園日は月曜(休日の場合は翌平日)と年末年始(12月28日~1月4日)。