
部員わずか3人で存続の危機に瀕していた八ヶ岳山麓の町立中学校の合唱部。少子化や教員の長時間労働が深刻化するなか、廃部を目前にしたこの部活動を救ったのは、地域に移住してきたプロの音楽家・根本崇史さん(51)だった。彼は年間約400時間もの指導時間を無償で捧げ、新たな「地域移行型」クラブ活動のモデルを築いた。筆者は現地を訪れ、その全貌を追った。
根本さんはもともと首都圏で合唱指揮者として活動していたが、5年前に山梨県北杜市へ移住。自らが主宰する合唱団の練習場所を探していたところ、地元の中学校から「部活の指導をしてくれないか」と声がかかった。当時、同校の合唱部は顧問の教員が異動したあと後任が見つからず、部員も減少。ほぼ活動休止状態にあった。
根本さんは「音楽を教える機会を失いたくなかった」と引き受け、週3回の放課後練習を開始。発声法やハーモニーの基礎から徹底的に指導し、わずか半年で部員は3人から15人に増加。保護者や地域住民も練習を見学し、自然と応援団が形成された。根本さんが費やす時間は週平均8時間、年間400時間に上る。
「この取り組みは単なる部活存続ではなく、地域全体で子どもを育てる仕組みづくりだ」と根本さんは語る。練習場所は学校施設のほか、公民館や地元の音楽ホールも活用。市教育委員会も経費の一部を補助し、他の学校からも視察が相次いでいる。
実際に部員だった3年生の女子生徒は「先生が来てから歌うことが楽しくなった。発表会では満席の観客の前で歌い、泣いてしまうくらい感動した」と振り返る。この合唱部の成功は、教員だけに負担を強いる旧来の部活動から、地域の人材と資源を活用する新しいモデルへの転換点として注目されている。