
遠方に住む3人の子どもたちは、電話で母の言動がおかしいと感じるようになった。「昨日も同じ話をしたのに忘れている」「食材が腐っているのに気づかない」――頻発する異変に、不安を募らせた長女が帰省すると、築40年の5LDKの豪邸は足の踏み場もないほどの物であふれていた。認知症の進行とともに、母はモノを捨てられず、むしろ増やし続けていたのだ。
子どもたちは話し合い、このままでは母の安全が脅かされると判断した。「私たちがやらなければ、この家はゴミ屋敷になる」と長男は語る。そこで、短期間での実家じまいを決意。しかし、遠方から通うだけでも容易ではなく、仕事や子育てとの両立は想像以上に困難だった。それでも3人の結束は強く、それぞれが役割を分担した。
片付けの現場では、想定を超える量の「思い出の品」と向き合うことになった。母が若い頃に使っていた着物や、子どもの頃の教科書、亡き父の遺品。ひとつひとつに思い出が詰まっているが、すべてを残すことはできない。「捨てるのは母を否定するようで辛かった」と次女は振り返る。一方で、ゴミ屋敷化を防ぐためには、感情に流されず迅速な判断が求められた。
さらに、認知症の母自身も戸惑いと抵抗を見せた。「これはまだ使える」と執着する母に、子どもたちは辛抱強く説明を繰り返した。専門家のアドバイスを受け、物を減らすことでむしろ母の生活が改善することを伝えると、少しずつ理解を示すようになった。最終的には、必要な家具や家電だけを残し、残りはリサイクルや廃棄に回した。
3カ月という驚異的なスピードで実家じまいを成し遂げた家族。その後、母は子どもの近くで新たな生活を始めた。空っぽになった豪邸は売却され、その資金は母の介護費用に充てられた。「実家を手放すのは寂しいが、母の未来を守るための選択だった」と長女は語る。この事例は、遠方に住む家族が直面する高齢者ケアの課題と、早期決断の重要性を私たちに突きつけている。