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「自国通貨建ての国債はいくらでも発行できる」——現代貨幣理論(MMT)はこの前提に立ち、財政赤字を拡大しても中央銀行が通貨を供給し続ければ、経済成長を維持できると主張する。だが歴史が示す教訓は正反対だ。通貨の無限供給はやがてインフレを加速させ、円安と国家財政の破綻を招く危険性をはらんでいる。はたして「無限の発行」は救済なのか、それとも危機への道なのか。
最も象徴的な事例が1920年代のドイツだ。第一次世界大戦の敗戦と賠償金支払いに苦しんだワイマール共和国は、財政赤字を穴埋めするため紙幣を濫発した。その結果、物価は天文学的な水準まで高騰し、1ドル=4.2マルクだった為替レートは1923年には1ドル=4兆2000億マルクへと暴落した。国債をいくら発行しても経済は成長せず、国民の貯蓄は一瞬で価値を失ったのである。
日本の現在の状況は、当時のドイツほど深刻ではない。それでも日銀が長短金利操作(イールドカーブコントロール)を通じて大量の国債を買い入れ続ければ、円安が進行し、エネルギーや食料といった輸入品の価格上昇として家計に跳ね返る。財政拡大と金融緩和を組み合わせるMMT的な政策は、資源を海外に依存する日本ではインフレを輸入する危険と隣り合わせだ。円安・インフレという形で、そのリスクはすでに顕在化しつつある。
MMT論者は「経済に遊休資源がある限り、財政出動してもインフレは起きない」と反論するだろう。確かに、デフレが続く局面では財政拡大が一定の効果を発揮する場合もある。しかし経済がフル稼働に近づいた後も通貨供給を続ければ、需給ギャップは急速に拡大し、物価上昇を招く。問題はその転換点を事前に見極めることが極めて難しく、気づいたときには金利急騰と通貨暴落が同時に襲いかかることだ。歴史はその繰り返しなのである。
結局、MMTの欠陥は市場の信認という要素を軽視している点にある。通貨の価値は発行量ではなく、その国の経済の実力と財政運営への信頼によって支えられている。信認を失った通貨ほど脆弱なものはなく、歴史が示すように、その終焉は突然訪れる。MMTブームの先に待つのは、円安・インフレの加速と国家財政の破綻という結末ではないのか。この歴史的教訓を、われわれは胸に刻むべきだ。