
NECは5月12日、2030年度を目標とする「2030中期経営計画」を公表した。2025年度に3972億円だった調整後営業利益を、2030年度に2倍へ引き上げる方針だ。
前回の中期経営計画期間(2021〜2025年)では、DX事業が追い風となり、時価総額が同社史上最高の8兆1000億円に達した。新たな計画期間について、森田隆之社長兼CEOは「目の前に“AI産業革命”という、従来の延長線ではない新しい局面が訪れている。どう勝ち抜くかがポイントだ」と同日の発表会で語った。
AIを巡っては、米Anthropicの「Claude」をはじめとする先端AIが業務ソフトウェアやITシステムを代替する懸念から、IT企業の株式が売られる「アンソロピックショック」が発生。NECの推計では、これにより世界の時価総額が約80兆円も消失した。
ITシステム構築事業を手掛けるNECも、先端AIの影響を無視できない。それでも森田社長は「NECは勝つ企業になる」と確信を示し、3つの「新しい時代の勝者の条件」を提示した。
森田社長は「AI産業革命において、脅威よりも新たな機会に向き合うことが重要だ」と指摘。革命初期の現在は半導体やAIハードウェア、クラウドが市場をけん引しているが、進展に伴いAIアプリケーションやAI基盤の需要が高まり、「世界で45兆円を超えるAIサービス市場が生まれる」(同)と予測する。
AIサービス市場をけん引するのは「業務のAIエージェント化」「AI基盤」「AI向けのデータ管理」「AI活用によるITシステムの刷新」「フィジカルAI」などだ。森田社長は「同市場では優勝劣敗――勝つ企業と負ける企業が鮮明になる。われわれは勝つ企業になる」と意気込んだ。
従来のIT業界は、システム開発工程の「コンサルティング」「システム構築」「オペレーション」(運用保守)ごとに受託企業や市場が分かれていた。AI活用を前提とする時代になると、全工程を一気通貫で手掛ける企業が顧客の価値創出を支えられると森田社長は見込む。
ITを巡っては、安全保障の観点でも変化が起きている。AIの進化や地政学リスクの拡大を受け、デジタルインフラの安全性や信頼性が重要視されるように。NECは、サイバーセキュリティ領域などで事業機会を得られるとみている。
「こうした構造変化が起きる中で、われわれが勝者になるには『ドメインナレッジ』『システムアーキテクチャ』『ファウンデーション』を兼ね備え、成果を創出できる存在になることが必要だ。これが中期経営計画における戦略の中核になる」(森田社長)
ドメインナレッジは「業種別に特化した専門知識」を意味し、AIの業務利用を支える要素だ。システムアーキテクチャは「AI基盤」「AIガバナンス」「AI用のデータ整備」「セキュアなクラウド基盤」など、AIを前提に設計・実装されたシステムを指す。ファウンデーションは「最先端のAI技術」「AIネイティブな組織」といった、AI時代のビジネスの土台になるものだ。
AI産業革命を勝ち抜くためのNECの戦略は、ITサービス事業で「AIの社会実装」を、社会インフラ事業で「新たな安全保障の技術実装」を加速させることだ。両輪を回すことで、継続的な技術進化と事業成長を狙う。その中核にドメインナレッジ、システムアーキテクチャ、ファウンデーションがある。
AIの社会実装を担うのが、同社のAI変革支援モデル「BluStellar」(ブルーステラ)だ。業種や領域別の支援パッケージ「BluStellar Scenario」(ブルーステラ シナリオ)にAIを組み込み、AIトランスフォーメーション(AX)を進展させる。同社はBluStellar事業について「2030年までに売上収益1兆3000億円を目指す」としている。
「BluStellar Scenarioにおけるシステム実装も、AIで飛躍的に加速させる。Anthropicなどグローバルな協業で得られる最新のAI技術や、自社保有のAIスーパーコンピュータを活用して、特定領域に特化したAIモデルをはじめとするAI基盤サービスをフルスタックで提供する」(森田社長)
社会インフラ事業は、防衛分野のICT事業を伸長させる。デジタルインフラに関しては、通信・海洋(海底ケーブル)・航空宇宙(人工衛星や航空管制など)の3領域を手掛ける強みを生かし、事業拡大を図る。
サイバーセキュリティ領域については、AI技術を用いたセキュリティサービス「CyIOC」(サイオック)を展開する構えだ。
2030年に向けたこれらの戦略を遂行し、NECが目指すのは「AIの社会実装によって人間の可能性を開き、革新をもたらし、新たな安全保障技術の実装によって人々が安心して暮らせる社会」の実現だ。森田社長は「誰もが人間性を最大限に発揮できる社会が訪れるものと確信している」として発表会を締めた。
AIを巡っては、利便性を重視する歓迎論と、リスクを懸念する脅威論が混在している。NECはAI産業革命期をうまく乗りこなし、2030年に見据える社会を実現させられるか。