
首都圏を拠点とする家電量販店ノジマは2025年4月、日立製作所の家電事業を買収すると正式に発表した。日立グループは国内外の家電事業を新設会社に移管した上で、ノジマがその株式の80.1%を約1100億円で取得する。この取引により、日立は家電事業から事実上撤退することになる。
白物家電や黒物家電はかつて日本のお家芸とされたが、2000年代以降、韓国や中国のメーカーが台頭し、海外市場での日本勢のシェアは低下した。国内市場でも安価な中国製品がシェアを伸ばしており、事業環境は厳しさを増している。こうした中、大手電機メーカー各社は家電事業の再編や売却を進めてきた。日立の撤退により、国内家電市場は「ノジマの日立家電」と「パナソニック」の二極構造へと移行する。
日立グループの家電事業は現在、日立製作所傘下の日立グローバルライフソリューションズ(GLS)が担っている。海外事業は2021年にトルコの家電大手アルチェリクに売却済みで、日立の持ち分は40%にとどまる。ノジマへの売却に際し、日立グループは国内外の全ての家電事業を新設会社に集約。アルチェリクは日立ブランドの家電事業から撤退し、最終的に日立グループは新設会社の株式19.9%を保有する形となる。
売却理由について日立は、「家電市場における顧客ニーズの多様化」を挙げている。さらに、実店舗を持つノジマが「販売およびサービスの現場で『お客さまの声』を汲み取る」とともに、「日立が培ってきた高度かつ高信頼な製造技術で、より速く、より高い次元の製品を生み出す」と説明し、日本のモノづくり強化に貢献していくとしている。しかし、実際には収益の低い家電事業から撤退したいというのが本音だろう。
日立製作所の2025年度売上高は10兆5867億円、営業利益は1兆1992億円で、営業利益率は11.3%に達する。一方、家電事業を担う日立GLSの売上高は3404億円、営業利益は158億円にとどまり、営業利益率は5%を下回る。規模と収益性の両面で家電事業の重要性は低く、日立は発電所や鉄道、エレベーターなどのビルシステム、さらにはIT活用のインフラ事業「Lumada」(2025年度売上高4.1兆円)を主力としている。
ノジマは日立の家電事業取得について、自社の「顧客接点や市場ニーズの抽出・還元力」と「日立のモノづくり技術」を融合し、製品開発からアフターサービスまでを一貫して強化するとの狙いを説明する。ノジマは首都圏を中心に国内で約240店舗、海外では子会社化した現地ブランドを中心に約110店舗を展開しており(2025年度末時点)、メーカー派遣販売員を受け入れないことで顧客目線の提案が強みだ。今回の買収により、この顧客接点との相乗効果をアピールしている。
ノジマは2024年度にPCメーカー・VAIOの事業を112億円で買収したばかりだ。VAIOの国内シェアは5%未満で、海外事業も小規模であり、当時は「なぜ今さら?」と疑問視する声もあった。今回買収する日立の家電事業は、洗濯機では国内シェアの2割超を占めるものの、世界シェアは1%未満というデータもあり、同様のリスクを指摘する向きもある。
筆者は、ノジマの家電事業参入には一部消費者の「国産信仰」を取り込む狙いがあると見ている。国内市場で依然として強い日本ブランドへの信頼を背景に、ノジマは日立ブランドの価値を活用して、低収益ながらも安定した需要を取り込もうとしている。しかし、グローバル競争が激化する中、この戦略が長期的に成功するかは不透明だ。