
東京・歌舞伎町の雑居ビル2階に、異色のスイーツ店「ShortCakeCompany(ショートケーキカンパニー)」がある。Googleマップを頼りにホストクラブや風俗店が並ぶさくら通りから路地へ入り、階段を上ると、グレー基調のホテルのラウンジのような空間が広がる。
同店はショートケーキ専門店で、1人で食べ切れるサイズのホールケーキを提供している。営業時間は平日が午後5時から午前0時、金土祝前日は午後5時から午前1時と、夜間のみの営業だ。
2023年11月にわずか5坪の雑居ビル2階でスタート。開業当初から1日平均80人が訪れる人気を集め、2024年11月には上階も借りて全34席に拡張した。
現在は2階をカウンター席中心の「おひとりさま」向け、3階を2人がけテーブル席中心の構成とし、テークアウトにも対応。来客数は平日で約100人、土日には約150人に達する。月商は平均1000万円前後と、開業からわずか2年で高い集客力を確立した。
「お客さまの8割は20~30代の女性2人組ですが、男性も増えています。2割は40~50代の常連のお客さまとインバウンドの方ですね。店舗拡張を機におひとりさまの比率は1割未満から2~3割へと増えました」と、ショートケーキカンパニーを運営する縁多(東京都新宿区)代表取締役の岳野めぐみ氏は話す。
歌舞伎町の雑居ビルで1人用サイズのショートケーキをホールで提供する。立地、商品、食べ方の全てがこれまでの「ケーキ店」の常識から外れているように見えるが、この業態はどのような発想から生まれたのか。
「1人でホールケーキを食べる」という前提は、岳野氏の思いつきで生まれたものではない。その背景には、同氏の約7年にわたる海外での生活がある。英国やタイ・バンコクのケーキ店には当たり前のように1人用サイズのホールケーキがあり、なぜこれが日本にないのかと以前から感じていたという。
また岳野氏は、18年にわたり東京・銀座にある割烹の女将として現場に立ち、さらにその後5年間、歌舞伎町のホストクラブの広報として働いてきた。そこでの経験もショートケーキカンパニーの誕生に大きな影響を与えている。
「仕事終わりの疲れを甘いもので癒(いや)したい人は多い。私自身もそうです。でも、夜にちゃんとしたケーキが食べられる場所は意外と少ない。歌舞伎町にはスイーツ店が特に少なく、コンビニしか選択肢がなかったんですよ。なければ自分で作ろうと思いました」
自身が求めるものを作る、飲食店の原点に立ち返った形だ。歌舞伎町にこだわりながら物件を探しつつ、一流店で経験を積んだ友人のパティシエとともに約2年かけてさまざまなケーキの開発を進めていった。
ようやく見つけた物件はわずか5坪。厨房は家庭用オーブンしか置けないほど狭かった。「この規模で多様なケーキを作るのは現実的ではない」と考え、以前から温めていた1人用ホールケーキという構想を形にすることにした。
では、なぜショートケーキだったのか。「モンブランやチーズケーキは有名店がたくさんあります。しかし、ショートケーキはスタンダード過ぎるからか、意外と他にないんですよね。私の中でのショートケーキの定義はスポンジと生クリームを使っていること。そう考えると、逆に自由度は高いのではと思いました」と、市場の空白に着目した。
ショートケーキカンパニーでは2種類の定番商品に加え、月替わり商品やパフェも用意している。ショートケーキはどれもジャージー牛乳の生クリームを使用しており、コクがありながらも食感は軽いのが特徴だ。
ケーキの直径は約10センチで、1人で食べきれるサイズ感を意識した。限定商品やパフェを展開することで、リピーターの来店動機づくりや、生クリームが得意ではない客の満足度にも力を入れている。
定番商品の「薔薇と苺のショートケーキ」(1300円)はフィリングにいちごのコンポートのほか、バラのジャムを加え、飽きの来ないおいしさを追求した。もう一つの定番商品「ルビーショコラショート」(1800円)は自然なピンク色とフルーティーな酸味が特徴の希少なルビーチョコを使用し、ミルクやダークチョコとは異なる味わいを意識した。
月替わりの商品にもこだわっている。1月の「抹茶ショートケーキ」(1900円)では、抹茶スイーツを取り扱う抹茶専門ブランド「千休」とコラボ。同ブランドの最高級抹茶と生クリームを組み合わせたほか、ケーキの上には抹茶クッキーや抹茶チョコレート、抹茶の生チョコレートをあしらい、抹茶づくしのケーキを開発した。
過去に最も反響が大きかった月替わり商品は、2024年8月に販売した「ブラックショートケーキ」(1800円)だ。竹炭を使った漆黒のショートケーキで、食欲が落ちる夏でも食べられるようにと塩味をベースに開発した。フィリングにはブラックベリー、ブルーベリー、カシスなどの黒系果実を使用。ケーキ業態では閑散期となる夏に最高月商1500万円を叩き出した。
月替わりケーキは「ブラックショートケーキ」や、米国発の真っ赤なケーキ「レッドベルベットショート」など、視覚的にインパクトのある商品が人気を集める傾向にある。逆に色が淡かったり、一般的なケーキとしては人気のあるフルーツが乗っていたりするものはそこまで人気にはならないという。
新商品のアイデアはどのように生まれているのか。「海外視察に行って現地で調査をしています。レッドベルベットも英国では普通にある商品ですが、日本にはありません。スポンジもクリームも真っ赤にしたケーキが食べたいとパティシエに伝えて、それを作ってもらっています。この前も社員旅行として韓国にカフェ文化を勉強しに行きました」
ショートケーキカンパニーのケーキは決して安いわけではない。一番価格が低い定番商品でも1300円。1ドリンクと1スイーツの注文が必須のため、金額は最低でも2000円程度。特に近年は物価高の影響もあり、ぜいたく品に位置付けられるケーキにとっては不利な状況だ。