
「Microsoft 365」(M365)のAI機能「Microsoft 365 Copilot」(Copilot)が登場して数年。当初は「期待外れだった」「ライセンスを配ったが結局使われていない」といった声があった一方、ここ1年ほどで「本当に便利になった」と評価が変わってきているという。何が評価の転換点だったのか。そしてエンドユーザーが使いこなす上で本質的に大事なことは何か。
ITmedia AI+編集部は「Microsoft MVP」としてCopilotの活用を推進する3人の専門家を招いた座談会を開催。その内容を前後編に分けてお届けする。
大手総合商社の広報部をへて、2022年からIT企画推進部でMicrosoft 365や生成AIの企画・推進を担当。PRの経験を生かし、システムを魔法の杖としない、ユーザー中心の教育・展開活動に注力。25年3月に「Microsoft MVP for Microsoft 365 Copilot」受賞。
ITベンダーでMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。
「居酒屋店員」「ミュージシャン」「Webデザイナー」といったさまざまな経歴をへて、2016年から複数の企業でMicrosoft 365(Office 365)関連の業務に従事。2018年に「Microsoft MVP Award」受賞。
ITmedia AI+ 編集記者。前職でエンジニアとしてMicrosoft 365の推進にかかわっていた。現在はOpenAIやAnthropic、GoogleなどのAIを幅広く利用中。
――Copilotの有料版(アドオンライセンス)は、企業で導入が進んでいるのでしょうか。
浅田:「大企業では2025年秋から全社で一気に導入に踏み切る例が増えた印象です。数百〜数千ライセンス規模で進めていたのを、全従業員分入れてしまえと。万単位のユーザーがいる企業でも全社導入したという話を聞くようになりました。」
中村:「一方、中堅・中小企業に目を向けると別の景色が見えます。少人数で試験導入したものの、情シスだけで触ってみて期待した成果が出せず、全社にスケールしないまま、1年後の更新時に解約してしまうケースも多く見てきました。」
中村:「その背景にあるのが「期待値」の問題です。新機能の華やかな情報を見て、期待値が上がった状態で実際に触るとがっかりしてしまう。私はお客さまに製品の説明する際には、メーカーが上げた期待値を調整する役割だと考えています。「ここまではできるけれど、これ以上は難しい」としっかり伝えないと、導入後にがっかりされてしまうので。」
――最近のCopilotの機能や使い勝手について、皆さんの評価はどう変わってきていますか。
浅田:「以前はCopilotが「ポンコツ」と言われ、他人に勧めにくい時期もありました。しかし「Edit with Copilot」(以前は「エージェントモード」と呼ばれていた機能で、WordやExcel、PowerPointの各アプリ内でCopilotがファイルを直接編集する機能)をはじめとした最近のアップデートにより、ユーザーに対して胸を張って「ここまでできるんです」と言い切れるようになりました。」
太田:「Copilotに限らず、生成AIを取り巻く技術全体が進化していますからね。3カ月前と今でもサービスの使い心地が全然違うので、使い続けている人と、数回使ってやめてしまった人とでは持っているイメージが違います。」
――その評価の転換が起きたのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
浅田:「OpenAIのモデル「GPT-5」の登場が大きかったですね。以前はOpenAIが新モデルを発表して、しばらくしてからCopilotに搭載されるのが恒例でした。Copilotで使えるようになるのは「ChatGPT」の3カ月遅れということもざらで、「別にCopilotじゃなくてもよいのでは」という感覚も世の中にはありました。」
浅田:「しかし、GPT-5に関してはOpenAIの発表から1時間後にMicrosoftが発表し、すぐにCopilotでも使えるようになりました。OpenAIの新モデル発表に世間が沸くタイミングで、Copilotも一緒に注目を集めたわけです。Copilotは企業向けの製品で普段はSNSで話題になりにくいだけに、この同時露出は意義が大きかったと感じます。」
太田:「もう一つの転換点が、Copilotの裏側の仕組みの変化です。Copilotには2つの形態があります。「Word」「Excel」「PowerPoint」「Outlook」といった各アプリに組み込まれているCopilotと、独立したアプリとして動作するCopilotチャットです。以前は各アプリのCopilotはアプリごとにバラバラの都合で新機能がリリースされ、どのアプリでどの機能が使えるのか分かりにくい状況でした。」
太田:「それがある時期から、各アプリのCopilotとCopilotチャットの処理基盤が統一され、新機能実装の速度が一気に上がり、できることが急速に増えました。」
中村:「さらにもう一つ、利用者目線で大きな変化を挙げると、Anthropicがパートナーとして加わり、Microsoftがマルチモデル戦略を打ち出したことです。OpenAIだけでなく、Anthropicの「Claude」など複数のAIモデルを、Copilotだけで使い分けられるようになった。これは利用者にとって大きな違いです。」
――エンドユーザーから見て、特に「変わった」と実感できる機能の進化はどこにありますか。
中村:「業務の起点は大抵、WordやExcel、PowerPointでファイルを作ることですから、これらのアプリのCopilotの使い勝手がユーザーの満足度を左右します。ところが初期のWordに組み込まれているCopilotは、文章の修正を依頼しても「こうやったらいいですよ」と提案してくるだけで、本文を直接書き換えてくれませんでした。ExcelのCopilotもセルを直接編集してくれない。「言うだけじゃなくやってよ」とユーザーがイライラしてしまう状況でした。」
中村:「Edit with Copilotの登場後は、Copilotがファイルを直接編集できるようになり、エンドユーザーの印象はだいぶよくなりました。」
中村:「ただ、そのアップデートを従業員に周知できていない企業は、「残念Copilot」のままの印象が残ってしまう。一度悪い印象を持たれるともう使われなくなり、ライセンスを配っていても使われない、宝の持ち腐れになってしまいます。」
浅田:「社内で利用を推進する業務で、まさに中村さんが指摘されたパターンに直面しています。アップデート内容がきちんと届いていない部署では、いまだに2024年のリリース直後のCopilotのイメージで止まっており「どうせ使えない」と決めつけてしまう人もいます。」
浅田:「だからこそ、推進担当者にとっては「ここが変わった」と具体的に伝え続けることが、改めて大事になっていると感じます。Copilotは、ここ1年で胸を張って薦められる製品に変わりました。あとは、その変化をいかにユーザーへ届けるか。利用推進で大事なポイントはそこに尽きると思います。」
――生成AIを使う際、「まずプロンプトの書き方を学ぶ」という発想は依然として根強いですが、皆さんはこのトレンドをどう見ていますか。
浅田:「2023年ごろに流行した「プロンプトエンジニアリング」ブームは、生成AI活用において一般のビジネスパーソンにマイナスの影響を与えたと思います。「ユースケースに応じたプロンプトがなければ生成AIはうまく使えない」と思い込む人を大勢生んでしまったからです。」
浅田:「2024年に当社でCopilotを導入した初期にも「ユースケース集やプロンプトが欲しい」「プロンプト講座をやってほしい」とよく言われましたが、私は絶対にやらないと決めていました。「あなたは何がしたいのですか? 今言ってくれた内容を、そのまま書くか音声入力すればいいんです。それで動きますし、期待通りの結果が返ってきますよ」とお伝えしていました。」
太田:「プロンプトを使いこなせる一部の人たちが洗練されたテンプレートを発信しすぎて、それが正解のように広まってしまった面もあるかもしれません。生成AIは、自然言語で話しかけるとそれっぽい回答を返してくるAIなので、プログラミングのように決められた形式の指示を出さなくても使える点が魅力だと思います。」
浅田:「そうなんです。「プロンプトをマークダウン記法で整える」みたいなテクニックって、一般的なビジネスパーソンにはハードルが高いんですよね。」
太田:「情報をきれいに構造化してプロンプトに落とし込むのって結構時間がかかります。「ちゃんとしたプロンプトを書かないと使えない」と思い込んでしまうと、そこでAI活用が止まってしまう。これは本当にもったいない。」
中村:「似た問題として、1回の質問で完璧な回答が返ってくることを期待するユーザーも多いです。最初に与える前提情報が少なくても、Copilotが会話の中で必要な情報を聞き出してくれます。」
――では、これから導入する企業はどのように使い始めればよいのでしょうか。
中村:「まずWeb検索の代わりとして使うのがよいと思います。「プロンプト」などの専門言葉を最初から使うと、「専門知識が必要なのか」と敬遠されてしまう。難しい言葉を使わず、「困ったらまずCopilotに聞いてみてください」と伝えるくらいが、最初の一歩としてはちょうどよいと思います。」
太田:「Web検索の代わりに使うのに慣れたら、もう一段進んだ使い方も自然に身につきます。私自身、在宅勤務時に「こういう記事を書かなくてはいけなくて、こんな内容にしようと思うんだけど、ちょっとイマイチかな。どう思う?」と隣の人に話しかけるようにCopilotに投げかけています。すると、「では原稿を書いてみましょうか」「最近こんな」つまり、「原稿を書くためにCopilotに指示を送る」のではなく、「Copilotとやり取りしている間に何かしらのアウトプットが出てくる」という感覚です。この感覚に慣れてもらうことが大切だと思います。」
――他に、皆さんのおすすめのCopilotの使い方があれば教えてください。
中村:「私はおそらくこの中で一番Copilotを使っていません(笑)。スライドや文書を作る時も自分で考えるのが好きなので、8〜9割を自分で作った上で、Copilotに「これでどうですか?」と確認してもらっています。すると、誤字脱字や論理の穴を指摘してくれますし、自分には出てこないアイデアも提案してくれます。」
中村:「最近お客さまにおすすめしている使い方は「Work IQ」(M365 Copilotがユーザーの業務文脈を理解するための仕組み)を生かした使い方です。例えば「リサーチツール」(Webや社内の情報を検索しレポートにまとめてくれる機能)に「自分のこれまでの業務履歴から強みと弱みを抽出して、キャリアプランをアドバイスしてほしい」と頼む。すると、自分が今まで作ってきたドキュメントや、チャット、電子メールのやりとりまで網羅的に収集してアドバイスを返してくれます。」
中村:「会社の評価面談や1on1では本音が言いにくい場面もあります。Copilotを使えば、同僚とのクローズドなチャットも含めて把握したAIに、人間関係を気にせず相談できるので、本当に心を開けるメンターになってくれます。」
浅田:「当社でも似た使い方をしています。人事部がCopilotの「Agent Builder」(エージェントをノーコードで作成できる機能)で「人事評価ではこういう観点で評価する」「フィードバックはこのように書く」といった手順を読み込ませたエージェントを作成しました。」
浅田:「従業員は目標設定や年度末のフィードバック、人事評価といったタイミングでそのエージェントを使って壁打ちしたりブラッシュアップしたりしながら、人事システムに入力する文章を作っています。私自身も、このエージェントに自分の業務履歴や上司とのやりとりなどを参照させて、1on1で上司に伝えたい内容を考えたりしています。」
太田:「私は1日の仕事の8割ぐらいでCopilotを使っています。本当にいろいろな業務に使えるので、おすすめを選ぶのが難しいですね(笑)Work IQによって業務の背景を読み取る能力が強化されたので、さまざまな場面にCopilotが自然に溶け込む場面が増えてきたと思います。」
後編では、他社のサービスとの違いを生む「Work IQ」の仕組みと、Copilotを使いこなすために企業が今やるべきことに迫る。
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