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「日本の社会保障は諸外国と比較すると、中福祉低負担となっている」。今国会で健康保険法改正案が審議入りした4月9日、高市早苗首相はこう答弁した。しかしながら、低負担のまま中福祉を維持し続ける魔法の杖はどこにも存在しない。歴代政権はこの言葉を、制度の持続可能性への危機感と、改革への覚悟を示すために用いてきた経緯がある。
小泉政権下の2006年、谷垣禎一財務相は「現世代が負担に比べて大きな便益を受け、その差を、日々刻々、将来世代に先送りしているという意味において、中福祉低負担ともいうべき状態にある」と述べた。この認識の下で、政権は患者負担の増額と診療報酬の引き下げを断行し、福祉を削る方向へと舵を切った。だがその副作用は深刻で、産科や救急の現場で医療崩壊を招く事態となったのである。
その反省に立ち、後継政権は社会保障の機能強化へと方向を転換した。麻生太郎首相は09年、当時の消費税率は低負担だとして、「やはり中負担をお願いすることが必要」と語り、その後の税率引き上げへの道筋をつけた。岸田文雄首相も同様の認識に立ち、子ども・子育て支援金制度の議論を通じて国民に負担の必要性を強く訴えてきた。高市首相も、こうした先人たちの苦渋の決断を重く受け止めるべきだ。
現行の健保法改正案には、OTC類似薬の追加負担や高額療養費の見直しが盛り込まれている。厚労相の答弁によれば、これらの改革で年間約2600億円の保険料負担が軽減されるが、それは実質的に患者側の自己負担増を意味する。一方で、75歳以上の金融所得を保険料に反映させるなど、低負担是正の一歩も見られる。しかし、給付を削る「低福祉」への歩みが加速している懸念は拭えない。
政府内では給付付き税額控除の検討が進む一方で、首相は消費税減税を議題に挙げるなど、政策の整合性が取れていない。負担への忌避感が強いからこそ、首相は中福祉の意義を真正面から説き、中負担を求める覚悟を示すべきだ。危機を先送りせず、持続可能な社会保障制度の構築に向けた真摯な議論を期待したい。魔法のような解決策がない今、政治が語るべきは不都合な真実である。