
「メダルを手放せば、国や人々を助けられる。ためらいは全くなかった」
4月、東京都内の空手道場。2021年東京五輪の空手男子組手75キロ級銅メダリスト、スタニスラフ・ホルナさん(37)の回答は、取材者として想定していたものだった。
ただ、迷いなく、当たり前のようにそう言い切る姿から感じた悲痛さは、その後もずっと頭の中に残っている。
ホルナさんは22年、ロシアの侵略を受ける祖国ウクライナの支援のため、銅メダルをオークションに出品。それが日本人の落札者を通して4年ぶりに返還された。冒頭の言葉は、メダルを売りに出した当時の心境をホルナさんが振り返ったものだ。
膨大な努力、数え切れない犠牲、周囲の支え─。五輪のメダルは、それらが目に見える形として現れた結晶である。アスリートにとって、どれほど大切なものか。今年2月に開かれたミラノ・コルティナ冬季五輪の会場では、スポットライトに照らされた表彰台の上でメダリストが万感の表情を浮かべる一方、舞台裏のミックスゾーンに足を運べば、メダルに届かなかった選手たちのすすり泣きが静かに響いていた。取材現場で目の当たりにしたそのコントラストを通して、五輪におけるメダルの存在の大きさを肌で感じた。だからこそ、キッパリとそれを手放す決断を下したホルナさんに、軽い衝撃を覚えた。