
中古車販売店に勤める新人・槇島ユズは、三菱ランサーの魅力を熱く語るあまり、自身の意図に反して成約を連発していた。エンジンだけで9種類ものバリエーションを誇るこの“変態セダン”は、自動車ファンの間で伝説的な存在であり、ユズはその超激レア車の細部までを興奮気味に解説した。
「売りたくない」と願うユズの悲鳴とは裏腹に、熱烈なオタクトークが図らずも顧客の心を掴み、今日もまた一台、愛する名車が店を去っていく。セダンを愛してやまない漫画家朝戸さんが、この奇妙なジレンマを描く。
ユズが特に熱弁したのは、ランサーエボリューションの限定モデルや、マイナーなグレードの仕様差だ。彼の知識はディーラー関係者も驚くほどで、客はその熱意に圧倒され、即決で購入を決意するケースが相次いだ。
しかし、その熱意がもたらした痛恨の誤算があった。ある日、ユズが最も自慢に思っていた一台——希少なエンジンとボディカラーの組み合わせ——を、まさかの常連客に熱弁した結果、即座に成約。ユズは「まさか自分が手放したくない車を自ら売ってしまうとは」と悔やむ。
こうして、中古車店員のジレンマは続く。好きだからこそ語りたくなるが、語れば語るほど車は遠ざかる。朝戸さんは「ラリーの遺伝子を持つこのクルマは、運命のいたずらで人を狂わせる」と結ぶ。