
人間は、いつ「自分の顔」を認識するようになるのか。心理学的には、鏡に映る自分を理解するのは2歳前後とされ、他者との違いが静かに浮かび上がる時期だと言われている。
宝塚時代から親交のある写真家レスリー・キー氏の前に立つたび、写されているはずの自分がむしろ見抜かれているような感覚に襲われるという。整えられた表情の裏にある揺らぎが光の中で浮かび上がり、写真とはその人の内面をすくい取るものだと気づかされる瞬間がある。
キー氏が手掛けるアート誌「SUPER」は、多様な人々の姿を通じて美のあり方を問い続け、見過ごされがちな存在に光を当てる。そこでは「見られる」行為が受け身ではなく、自らを「見せる」選択へと変わる重要な場となっている。
出演するシェークスピア劇「ハムレット」の稽古は終盤。初日まで5日前、舞台化粧を新たに王妃ガートルードとしての準備を進める。鏡に映る顔は自分でありながら自分ではなく、その境界の曖昧さが役の入り込みを促す。
自分と役の間を行き来する中で、役が静かに内側へと浸透してくる感覚がある。柚香光は、新たな「顔」との遭遇を通じて、舞台の世界に深く没入している。