
公式確認から70年を迎えた水俣病をめぐり、朝日新聞のアンケートに寄せられた患者やその家族の声からは、治ることのない症状の痛み、差別・偏見への憤り、行政や加害企業への怒りが浮かび上がる。回答者の言葉は、未曽有の公害がもたらす複合的な苦しみを生々しく伝えている。
メチル水銀が脳の神経を破壊する水俣病は、根本治療法がなく、手足のしびれや痛み、こむら返り(地元で「カラス曲がり」と呼ばれる)などの症状が特徴だ。88歳の男性は「夜中に針でさすような痛みで、寝不足で体調が良くない時はこれ以上生きたくないと思う日が多くなって来ました」と語り、くるぶしから足先まで痛み、トイレに這って行くようになったと打ち明ける。別の88歳の女性は「カラス曲がりが夜明けごろひんぱんに起こり、ひきつりの時間も長く、痛さも強烈」と訴える。
症状が一見して分かりにくい中軽度の患者は、理解を得られずに孤立する。78歳の男性は「特に足ですが、傷付いても、打ちつけても、気付き難く、友人に血が流れていると言われた事が、度々有ったり」と述べ、ペットボトルのふたが開けられないほどの手指の弱さや、感覚の鈍さによる危険を挙げる。82歳の女性は「見た目が普通で何もないのに、コップや茶椀を落として良く怒られました。自分自身も情なくて悔しい思いをしました」と振り返る。
「外見からは水俣病とは思われないのでニセ患者とささやかれている」(74歳男性)という声もあり、誹謗中傷への恐怖が日常に影を落とす。また、自分が水俣病だと長年気づかず、認定申請が遅れるケースも多い。76歳の男性は「10数年前頃から体調がすぐれず、個人的なもの、年令的なものと思っていました。水俣病のイメージは、とてもとてもひどい症状のものでしたから」と説明し、特措法の情報が「知ろうとしている人以外には通りすぎてしまう」と指摘する。
「友人が離れた」「誹謗中傷こわい」――アンケートには、見た目に表れにくい症状ゆえの孤独や不当な扱いへの苦しみが繰り返し綴られた。患者たちは今もなお、身体の痛みと社会の無理解という二重の苦しみを抱えながら、救済を求めている。
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